コピー用紙を1枚、手に取ってみてください。
ヨコに半分に折ると、もとと同じ「縦長の長方形」になる。それも、なんだかもとの紙と同じプロポーションに見える。
じつはこれ、偶然ではありません。A4用紙のタテとヨコの比には、ある数学的な仕掛けが隠されています。
- A4用紙のタテ÷ヨコが「√2」になっている理由
- 半分に折っても縦横比が変わらない、その数学的カラクリ
- A判・B判のサイズがどうやって決まっているか
- 白銀比が潜んでいる身近なもの
A4の寸法は「297mm × 210mm」
まず事実を確認しましょう。A4用紙のサイズは、タテ297mm、ヨコ210mm。
この2つの数字を割り算すると──
297 ÷ 210 ≒ 1.4142…
見覚えのある数字です。そう、これは √2(ルート2) にほかなりません。
1.41421356… あの「ひとよひとよにひとみごろ」の数字が、毎日使う紙のなかに潜んでいるのです。
2乗すると2になる正の数。約1.41421356…の無理数。
「ひとよひとよにひとみごろ」の語呂合わせで覚えた人も多いはず。
なぜ√2でなければならないのか
べつに3:2とか、キリのいい比率でもよくない?
それだと、半分に切ったときに「形が変わる」んです。
√2だけが、半分にしてもプロポーションを保てる唯一の比率なんですよ。
これを少しだけ数式で見てみましょう。
タテとヨコの比が「x : 1」の長方形があるとします。
この紙を長辺方向に半分に折ると、新しい長方形のサイズは「1 : x/2」。
タテヨコをひっくり返すと「x/2 : 1」になりますね。
もとの比と同じになるには、x = x/2 ではダメで──
正確には、新しい紙の縦横比も x : 1 にしたいので、
1 ÷ (x/2) = x
つまり 2/x = x → x² = 2 → x = √2。
これが「半分に折っても同じ形」を実現する唯一の解です。
A0からA4まで、ぜんぶ相似形
この√2の性質を使って、A判の用紙サイズ体系はつくられています。
いちばん大きい A0 の面積は ちょうど1平方メートル と決められています。
そして縦横比が√2 : 1なので、計算すると──
- A0:841mm × 1189mm(面積 ≒ 1m²)
- A1:A0の半分 → 594mm × 841mm
- A2:A1の半分 → 420mm × 594mm
- A3:A2の半分 → 297mm × 420mm
- A4:A3の半分 → 210mm × 297mm
どこで切っても、同じ形の長方形が出てくる。だから拡大・縮小コピーをしても余白ができない。
これは印刷や製紙の現場にとって、とてつもなく便利な性質です。
端数が出るのは、mm単位で丸めているから。理論値はもっときれいな数字ですが、
実用上はミリ単位に丸めて規格化されています。

こうして並べてみると、どのサイズも「ひとつ上を半分にしたもの」だということが一目で伝わります。
「白銀比」という名前
この1 : √2の比率には、白銀比(はくぎんひ)という名前がついています。
「黄金比」が 1 : 1.618… で有名ですが、白銀比はその日本版とも言える存在。
じつは日本の伝統建築や仏像の顔の比率に白銀比が多く見られるという指摘もあり、
「日本人が美しいと感じる比率」なんて言われることもあります。
1 : √2(≒ 1 : 1.414)の比率のこと。大和比とも呼ばれる。
A判・B判の用紙サイズはすべてこの比率で設計されている。
B判もそうなの? B5ノートとか。
はい。B判も縦横比は同じ√2です。
違いは出発点の面積で、B0は1.5m²。日本独自の規格として生き残っています。
身近にある白銀比
白銀比は紙のなかだけに隠れているわけではありません。
ふだんの暮らしのなかにも、1 : √2 のプロポーションはあちこちに潜んでいます。
- 法隆寺の金堂 ── 正面の幅と高さの比がほぼ1 : √2。飛鳥時代の建築にすでにこの比率が使われていたと言われています。
- 風呂敷 ── 伝統的な風呂敷のタテヨコ比は白銀比に近い。包んだときに美しくまとまるのはこの比率のおかげとも。
- 五重塔のシルエット ── 各層の屋根幅が上に向かって√2の比率で縮んでいく構造を持つものがあります。
- トランプのカード ── ブリッジサイズのトランプ(57mm × 89mm)は、タテ÷ヨコ ≒ 1.56 で白銀比より少し大きいですが、ポーカーサイズ(63mm × 89mm)はさらに正方形寄り。実は「持ちやすさ」を追求すると自然と白銀比に近づくとも言われています。
- 名刺 ── 日本の標準名刺サイズは 91mm × 55mm。比率は約1.65で黄金比に近いのですが、欧米の名刺(89mm × 51mm ≒ 1.745)はまた違う。比率の違いが文化圏で分かれるのも面白いところです。
意識したことなかったけど、建築にも紙にも同じ比率が出てくるんですね。
しかも、誰かが「白銀比にしよう」と決めたわけじゃないケースも多い。
「なんとなくバランスがいい」と感じる形を追求したら、結果的に√2に収束した──そんな例がたくさんあるんです。
長さの由来は?
A版印刷 B版印刷の縦横の長さって何か起源があるんでしょうか?中途半端な数字ですよね。
いい質問です。じつはあの「中途半端な数字」には、とても明快な出発点があるんですよ。
A判の起点は、さきほど触れたとおり 「A0の面積 = ちょうど1m²」 というルール。
ここに縦横比√2を掛け合わせると、タテとヨコが自動的に決まります。
具体的には、ヨコを w、タテを w×√2 とすると──
w × w√2 = 1,000,000 mm²(= 1m²)
これを解くと w ≒ 840.9mm、タテ ≒ 1189.2mm。
ミリ単位で丸めて 841mm × 1189mm がA0。ここから半分にしていくだけです。
じゃあB判は?
B判はもっと面白い話があります。日本のB判は 「B0の面積 = 1.5m²」 が出発点。
でもこれ、じつは国際規格のB判(ISO 216)とは微妙に違うんです。
国際規格のB判は「AnとA(n-1)の 幾何平均」で定義されるのに対し、
日本のB判(JIS B列)は江戸時代の 美濃紙(みのがみ)のサイズに由来しています。
美濃紙の寸法がおよそ273mm × 394mm。
これを基準にして、面積1.5m²を出発点に√2の比率で展開したのがJIS B列です。
だから日本のB5(182mm × 257mm)と、国際規格のB5(176mm × 250mm)は実はサイズが違う。
海外で印刷物を発注するときに「B5」と言っても、微妙にずれることがあるのはこのためです。
美濃紙は岐阜県美濃市の特産品で、ユネスコ無形文化遺産にも登録されている和紙。
1,300年以上の歴史を持つこの紙が、現代のB判サイズの祖先だと考えると、ちょっと感慨深いものがあります。
つまり、A判は「面積1m²」という合理的なメートル法から、
B判は「江戸時代の和紙」という歴史的な実物からスタートしている。
あの中途半端に見える数字の裏には、数学と伝統がそれぞれ絡んでいたのです。
まとめ:コピー用紙1枚に、√2が宿っている
- A4のタテ÷ヨコ ≒ 1.414… は √2。半分に折っても同じ形になる唯一の比率
- A判は「面積1m²」、日本のB判は「美濃紙」が起源。白銀比で展開して全サイズが決まる
- 法隆寺から風呂敷まで、白銀比は日本の暮らしのあちこちに潜んでいる
ふだん何気なく使っているコピー用紙に、数学の定数が仕込まれている。
「半分にしても同じ形」という、ただそれだけの要求が √2 を呼び寄せた──
次にプリンターに紙をセットするとき、ちょっとだけ1.414…のことを思い出してみてください。
タグ:#A4 #用紙サイズ #白銀比 #美濃紙 #日常の数学