事件名:尊属傷害致死被告事件
裁判所:最高裁判所
判決日:昭和49年9月26日
関係法令:
・日本国憲法14条1項(法の下の平等)
・刑法旧205条2項(尊属傷害致死)
論点:
・尊属傷害致死重罰規定の合憲性
・前年の尊属殺人違憲判決との関係
・刑罰加重の程度と均衡
結論:
・加重の程度が極端でなく執行猶予の余地があるため憲法14条1項に違反しない(合憲)
こんにちは! 今日は、以前お話しした「尊属殺人事件」のすぐ後に出された、もう一つの大切な裁判を紹介するね。
「親を殺したときに特別に重く罰するのはダメ」と決まったけれど、「親にケガをさせて死なせてしまった(傷害致死)」という場合はどうなるのかな? 裁判所が出した、前回の判決との「違い」に注目して見てみよう。
【ストーリー】「殺人じゃなくても重いのは不公平!」 vs 「今回はバランスがとれています」
私は、親とのトラブルの末にケガをさせてしまい、そのせいで親が亡くなってしまいました。深く反省しています。
裁判所さん、昨年の「尊属殺人事件(昭和48年判決)」では、「親だからという理由で刑を重くしすぎるのは、法の下の平等(憲法14条)に反する」と決まりましたよね。この「尊属傷害致死罪(旧刑法205条2項)」も、普通の傷害致死より重い罰が決まっています。これも同じように憲法違反のはずです!
ちょっと待ってください。前回の殺人罪のときは、罰が重すぎて「執行猶予(しっこうゆうよ:刑務所に行かずに様子を見ること)」がつけられないことが問題でした。でも、今回の傷害致死罪のルールは、そこまで極端ではありません。
そうですね。前回の「尊属殺人」のときは、天秤がガクンと傾きすぎて、個人の事情を全く聞き入れられなかったのがダメでした。今回の「尊属傷害致死」の天秤はどうなっているか、じっくり見てみましょう。
【解説】裁判所でのバトル:「重くする程度」が合憲か違憲かの分かれ目
今回のバトルのポイントは、同じ「親を対象にした加重規定(重くするルール)」でも、「重くする程度がどれくらいか」ということだよ。
裁判所は、昭和48年の尊属殺人事件のときと同じく、「魔法の天秤」を使ってチェックしたんだ。
1. 目的は正しいか?:「親や祖父母を敬う」という道徳的な目的をもつこと自体は、今回も「正当」だとされたよ。
2. やり方はやりすぎていないか?:ここが前回との大きな違いなんだ!
– 尊属殺人罪の場合:刑が「死刑」か「無期懲役」しかなかった。これでは、どんなに気の毒な事情があっても、絶対に刑務所に行かなきゃいけない(執行猶予がつけられない)から、やりすぎ(違憲)と判断されたんだ。
– 尊属傷害致死罪の場合:当時のルールでは「3年以上の懲役」となっていた。これなら、裁判官が事情を考えて刑を軽くすれば、「執行猶予」をつけてあげることもできたんだ。
裁判所はこう考えたんだ。「親を敬うという目的のために、少し刑を重くすること自体は認められる。そして今回のルールは、個別の事情に合わせて柔軟に判断できる余地があるから、天秤のバランスはギリギリ崩れていない(憲法違反ではない)」ってね。
【判決】刑罰の加重が極端ではないので、憲法違反ではない!
最高裁判所(昭和49年9月26日)は、次のような答えを出しました。
1. 尊属傷害致死重罰規定は「合憲」! 親を対象として刑を重くすること自体には合理的な理由があり、その重くする程度も、尊属殺人罪の場合のように極端ではないため、憲法14条1項には違反しないと判断されました。
2. 執行猶予がつくかどうかが分かれ目! 個人の事情によって刑を軽くし、執行猶予を与えることができる仕組みが残っているかどうかが、平等かどうかの大きな判断材料になったんだね。
【判決の言葉】
最高裁判所の判決(昭和49年9月26日)より(要約)
「尊属傷害致死重罰規定(刑法旧205条2項)は、刑罰の過重の程度が(尊属殺人のときのように)著しくなく、立法目的達成の手段として不合理とはいえないから、憲法14条1項に違反しない。」
【追記】判決の後、日本はどう変わったの?
この判決で、一旦は「傷害致死なら重くしてもOK」となったけれど、時代の流れは止まらなかったよ。
– 「尊属」を特別扱いする考え方が古くなった! 「殺人罪はダメだけど、傷害致死ならいい」という区別は、少し複雑でわかりにくいよね。国民の間でも「そもそも親であっても、法律上の扱いは他人と同じであるべきだ」という考え方がどんどん強まっていったんだ。
– ついに全ての「尊属加重規定」が消えた! 1995年(平成7年)に刑法が大きく改正されたとき、先に「違憲」といわれていた尊属殺人の規定だけでなく、今回の裁判で「合憲」といわれた尊属傷害致死の規定も、まとめて法律から削除されたんだ。
– 今の日本の「平等」な形へ! これによって、現在の日本では、親を殺してしまったときも、親にケガをさせて死なせてしまったときも、「普通の人に対する罪」と同じ法律の枠組みで、一人ひとりの事情をしっかり見て裁かれるようになったんだよ。
まとめ
– 尊属殺人罪は「重すぎてダメ」だったが、尊属傷害致死罪は「そこまで重くないからOK」と一旦は言われた
– 判断の決め手は、個別の事情を考慮して「執行猶予」をつけられる余地があるかどうかだった
– でも結局は時代の変化に合わせて、今では親を特別扱いする罰則はすべてなくなったんだね!
「法律は時代の鏡」。一度は「正しい」と言われたルールでも、みんなの考え方が変われば、より公平な形へとアップデートされていくことを教えてくれる事件だったんだよ。
条文補足:民法第七百三条(不当利得の返還義務)
法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。