事件名:三菱樹脂事件/日産自動車事件
裁判所:最高裁判所
判決日:昭和48年12月12日(三菱樹脂事件)/昭和56年3月24日(日産自動車事件)
関係法令:
・憲法14条(平等権)
・憲法19条(思想・信条の自由)
・民法90条(公序良俗)
論点:
・契約の自由
・間接適用(憲法と民法の関係)
・公序良俗による差別の無効化
結論:
・三菱樹脂事件:会社側の勝訴(採用拒否は契約の自由の範囲内)
・日産自動車事件:女性社員側の勝訴(男女別定年は公序良俗に反し無効)
こんにちは!今日は、会社と個人の間では「憲法」と「民法」どっちが使われるの?というお話を、実際に裁判で戦った「お兄さん」と「会社の人」の会話形式で紹介するよ。
【ストーリー】「隠しごと」をめぐる言い争い
やった!三菱樹脂っていう大きな会社に採用されたぞ。3ヶ月間のお試し期間(試用期間)が終われば、正式な社員だ!
……ちょっと待ってください。お兄さん、あなたは入社試験のとき「学生時代に政治活動(学生運動)はしていませんでした」と言いましたよね? でも、実は激しく活動していたことがわかりました。
あ、それは……。
嘘をつく人を正式に雇うことはできません。お試し期間はここまでです。さようなら!
そんなのひどい!何を考えるかは個人の自由(思想・信条の自由)だし、それを理由に差別して雇わないのは「憲法違反」だ!裁判所に訴えてやる!
【解説】裁判所でのバトル:憲法 vs 民法
裁判長!憲法には「みんな平等だ」とか「何を考えても自由だ」って書いてあります。会社が僕の考え方を調べて、それを理由にクビにするのは絶対におかしいです!
裁判長、私たちは「国」ではありません。ただの「会社」です。自分たちの仕事のために、どんな人を雇うか、どんな人を断るかは、私たちの自由(契約締結の自由)であるはずです。
二人とも落ち着いて。実はね、憲法というのは、もともと「国」が国民に対して悪いことをしないように見張るためのルールなんだ。
えっ?会社には関係ないんですか?
そう。会社と個人のような「民間人同士」のやり取りには、憲法はそのまま直接は使われないんだ。代わりに「民法」という、みんなの間のルールが使われるよ。
【判決】会社には「選ぶ自由」がある
今回の「三菱樹脂事件」の答えを出すよ。
1. 会社は、誰を雇うか自由に決めていい!
会社も自分たちの営業のために、どんな考えの人を雇いたいか選ぶ自由がある。特定の思想を持っているからといって雇うのを断っても、すぐさま「法律違反」にはならないんだ。
2. お兄さんの思想を調べるのも自由!
採用するときに「どんな考えを持っているのかな?」と調査することも、会社の自由だよ。
じゃあ、会社は僕にいじわるし放題なんですか!?
そこが大事なポイント。もし会社が「あまりにもやりすぎな差別」をしたら、民法の「公序良俗(こうじょりょうぞく)」っていうルール(民法90条)を使って、「そのクビは無効だ!」と言うことができる。
憲法を直接使うのではなく、民法の条文を媒介にして、憲法の理想を民間人同士の関係にも届ける考え方。
憲法を直接使うんじゃなくて、民法っていうクッションを通して、憲法の「みんな仲良く、平等に」という思いを届ける。これを「間接適用(かんせつてきよう)」と呼ぶことにしたよ。
今回のケースでは、会社がお兄さんを断ったことは「やりすぎ」とまでは言えないから、会社の勝ちだ!
まとめ
– 憲法は「国 vs 国民」のルール。
– 民間(会社 vs 人)の間では、原則として民法が使われる。
– 会社には、誰を雇うか自由に決める「契約の自由」がある。
– ただし、あまりにひどい差別があるときは、民法の魔法の言葉(90条)を使って、憲法の考え方が助けに来てくれる(間接適用説)。
お兄さんは負けちゃったけれど、この「三菱樹脂事件」のおかげで、今の日本の「会社と働く人のルール」の基礎ができたんだね!
前の記事では「三菱樹脂事件」を紹介しましたが、「会社と個人のルールは民法が主役」といっても、何でもかんでも会社の自由になるわけではありません。
今回は、裁判所が「それはやりすぎ!民法のルール(公序良俗)に違反するから無効です!」とはっきり宣言した有名な事件、【日産自動車事件】を紹介するよ。
公序良俗に反して無効であるとした判例もあるのか?【日産自動車事件】
この裁判では、「定年(仕事を辞めなければいけない年齢)」の男女の違いが問題になったんだ。
【ストーリー】「女の人だけ早く辞めて」なんて、おかしくない?
課長、私は今年で55歳になります。まだまだ元気に働きたいです!
お疲れ様。でも、うちの会社のルール(就業規則)では、「男性は60歳、女性は55歳が定年」と決まっているんだ。だから君は今月で退職だよ。
えっ! 男性はあと5年も働けるのに、女性だけ早く辞めなきゃいけないんですか? 性別だけで差別するのは、憲法が保証する「平等」に反するはずです!
いやいや、前回の三菱樹脂事件でも言われていたでしょ? 会社と個人の契約には「民法」が適用されるし、会社にはルールを自由に決める権利があるんだ。
【解説】「民法のクッション」が助けに来る瞬間
裁判長! 憲法14条には「みんな平等だ」と書いてあります。それなのに、女性という理由だけで早く仕事を辞めさせられるのは、絶対におかしいです!
私たちは民間企業です。会社の経営のために、どのような定年ルールを作るかは私たちの自由であるはずです。
うーん、確かに会社と個人の間では「民法」が主役だね。でも、民法90条には「社会の常識(公序良俗)に反する契約は無効にする」という大事なルールがあるんだ。
でも、これは私たちが話し合って決めたルールですよ?
たとえ会社が決めたルールであっても、「専ら女子であることのみを理由として」、男性よりも不利な定年を定めることは、今の社会では「不合理な差別」にあたる。これは憲法が大切にしている「平等の精神」を無視しすぎていて、社会の常識(公序良俗)に反していると言わざるをえないね。
【判決】性別による差別は「無効」!
結論を言うよ。
1. このルールは「無効」です!
の定年を男性より低く設定することは、合理的な理由がない差別。だから、民法90条(公序良俗)に違反するので、このルールは無効になります。
2. 女性社員は働き続けてOK!
ルールが無効なんだから、早く辞めさせることはできません。
よかった! 民法のルールが、憲法の「平等の思い」を運んできてくれたんだね。
もうひとつの似たケース:【入会権(いりあいけん)】
この他にも、地域の山や広場をみんなで使う権利(入会権)について、「男の子の孫には認めるけど、女の子の孫には認めない」という昔からの慣習も、裁判所は「性別による差別で、公序良俗に反するから無効!」と判断しているよ(最判平18・3・17)。
まとめ
– 会社と個人の間では、原則として民法が使われる。
– しかし、憲法が守っている「男女平等」などの大切な考え方を無視しすぎたルールは、民法の「公序良俗」という言葉によって、「無効」にされることがある(間接適用説)。
憲法は、民法という「クッション」を通して、私たちの毎日の生活や仕事の場にも、ちゃんと届いているんだね!