事件名:名誉毀損被告事件(夕刊和歌山時事事件)
裁判所:最高裁判所大法廷
判決日:昭和44年6月25日
関係法令:
・刑法230条(名誉毀損罪)
・刑法230条の2(真実性の証明による免責)
・日本国憲法21条(表現の自由)
論点:
・名誉毀損と真実相当性の法理(刑事版)
・「相当の理由」による故意の否定
・表現の自由とジャーナリズムの保護
結論:
・刑事裁判においても、真実と信じるに足りる相当な理由があれば名誉毀損罪は成立しない(無罪)
こんにちは! 今日は、以前お話しした「名誉毀損(めいよきそん)と真実相当性」のお話の、「刑事(けいじ:警察に捕まって裁判になること)」バージョンを紹介するね。
もし新聞記者が「あの政治家は悪いことをしている!」と記事を書いたけれど、後でそれが間違い(ウソ)だと分かったとき、その記者は「犯罪者」として刑務所に行かなければならないのかな? 表現の自由を守るための、とっても重要なルールの完成版を見てみよう。
【ストーリー】「間違った記事で私の顔は泥だらけだ!」 vs 「ちゃんと裏付けは取ったんだ!」
地元の有力な政治家が不正をしているという情報を掴みました。関係者の証言や資料も集めたし、これは間違いありません。住民のみんなに知らせるために記事にします!
おい! こんなのデタラメだ! 私の名誉を傷つけたな。刑法230条の名誉毀損罪で訴えてやる。警察に捕まって、しっかり罰を受けてもらうぞ!
待ってください。私は適当に書いたわけじゃありません。記事にする前にたくさんの人に会い、確かな資料も確認しました。あの時点では、誰がどう見ても「本当だ」と信じるのが当たり前の状況だったんです。わざと嘘を書いたわけではありません!
【解説】裁判所でのバトル:登場!「魔法の盾(真実相当性の完成)」
今回のバトルのポイントは、「刑事裁判(犯罪かどうか)」においても、「本当だと信じちゃったならセーフ」というルールを認めるかどうか、ということだよ。
以前紹介した判例(昭和41年6月23日)では、「民事裁判(お金を払うかどうか)」でこの「魔法の盾(真実相当性)」が認められたよね。でも、刑罰を科す刑事裁判でも同じことが言えるのか、はっきりと決まっていなかったんだ。
裁判所はこう考えたんだ。 「刑法には『本当だと証明できれば罰しない』と書いてある。けれど、もし『100%本当だと証明できない限り、記者はみんな犯罪者になる』というルールにしてしまったら、記者は怖くなって、社会の悪いことを批判できなくなってしまう(表現の自由が死んでしまう)よね」って。
そこで、裁判所は刑事裁判でもこの盾を認めることにしたんだ。 「その内容がみんなのため(公共の利害・公益目的)であって、書いた人がそれを本当だと信じてしまったことに、『確実な資料や根拠(相当の理由)』があるのなら、名誉を傷つけようとする『わざと(故意)』がないと言える。だから、罪にはならない(無罪)んだよ」と決めたんだね。
【判決】信じるための「相当な理由」があれば、名誉毀損の罪は成立しない!
最高裁判所大法廷(昭和44年6月25日)は、次のような答えを出しました。
1. 「本当だと信じた」ことに正当な理由があれば無罪! たとえ記事の内容が真実だと証明できなくても、確実な資料や根拠に基づいて「本当だ」と誤信(信じ込むこと)したのであれば、名誉毀損の罪は成立しません。
2. 表現の自由と名誉の保護を調整した! 個人の名誉を守ることは大事だけれど、社会を良くするための自由な言論(ジャーナリズム)を萎縮させないために、このバランスが必要だと判断されました。
【判決の言葉】
最高裁判所大法廷の判決(昭和44年6月25日)より
「真実であることの証明がない場合でも、行為者がその事実を真実であると誤信し、その誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるときは、……名誉毀損の罪は成立しないものと解するのが相当である。」
【追記】判決の後、日本はどう変わったの?
この判決は、日本の「報道のあり方」を決定づける歴史的な一歩になったよ。
– ジャーナリストが安心して「ウォッチドッグ(社会の番犬)」になれるようになった! もし100%の証明ができなければ即逮捕……という世界だったら、今のニュースの多くは存在しなかったかもしれない。この判決のおかげで、しっかり調査さえしていれば、権力を厳しく批判することができるようになったんだ。
– 「刑事」と「民事」のルールが一本化された! 昭和41年の民事判決と、この昭和44年の刑事判決がそろったことで、日本における名誉毀損のルールが完全に固まった。これ以降、すべての裁判で「どれだけちゃんと裏付け取材をしたか(相当の理由)」が最も重要なチェックポイントになったんだよ。
– 「調査の質」がより厳しく求められるようになった! 「信じる理由」があればいいと言っても、それは「いい加減な噂話」ではダメなんだ。「確実な資料や根拠」があるかどうかを裁判所が厳しく見るようになったので、日本の報道機関は、より正確で誠実な取材を目指すようになったんだね。
まとめ
– 名誉毀損は、内容が「本当」なら罰せられない
– たとえウソであっても、「しっかりした根拠」をもって本当だと信じたなら、やっぱり罰せられない
– これによって、「みんなの知る権利」を守るジャーナリズムが、今の日本で自由に活動できるようになったんだね!
「自由にしゃべっていいけれど、誰かを批判するときはちゃんと調べよう」。この当たり前のルールが、実は私たちの民主主義を支える大きな支柱になっているんだよ。