行政・法律の疑問 読了 4分

国のリーダーの「解散」という決断には、裁判所は口を出さないよっていう判例【苫米地(とまべち)事件】

★ 判例データ

事件名:衆議院議員資格確認並びに歳費請求上告事件(苫米地事件上告審判決)
裁判所:最高裁判所
判決日:昭和35年6月8日

関係法令:
・憲法7条
・憲法69条

論点:
・統治行為論
・衆議院解散
・7条解散
・三権分立

結論:
・衆議院の解散のように国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為については、裁判所の審査権は及ばない

こんにちは!今日は、日本の政治のルールをめぐる、とっても大きな裁判を紹介するね。

「総理大臣が『議会を解散するぞ!』と決めたことに対して、裁判所が『それはダメだ』と言えるのか?」という、国のパワーバランス(権力分立)に関わるお話なんだ。

【ストーリー】「勝手にクビにするな!」 vs 「これは政治の判断だ!」

元衆議院議員の苫米地さん

私は国民に選ばれた衆議院議員です。それなのに、政府(内閣)が急に「衆議院を解散する!」と言い出しました。憲法69条には「内閣不信任案が可決された時」に解散できると書いてありますが、今回はそんな決議はありません。憲法7条(天皇の国事行為)を理由に勝手に解散して、私の議員の身分を奪うのは憲法違反です! だから、解散は無効です。私が議員だったはずの期間の給料(歳費:さいひ)を払ってください!
国の役人

何を言っているんですか。憲法7条には、内閣の助言と承認があれば解散ができると解釈されています。これは、国をどう運営していくかという、政治のトップが決める非常に高度な判断です。
苫米地さん

裁判所さん! 憲法違反の疑いがある以上、裁判で白黒つけてください。この解散が正しいかどうか、判断をお願いします!
裁判所

うーん、これは困ったぞ。裁判所は「憲法の番人」だけれど、政治家同士のハイレベルな争いにどこまで踏み込んでいいものか……。

【解説】裁判所でのバトル:登場!「手が出せない箱(統治行為論)」

今回のバトルで、裁判所は「統治行為論(とうちこういろん)」という、とっても強力な「魔法の言葉」を使ったんだ。

裁判所は普段、法律が憲法に違反していないかチェックしているけれど、中には「裁判官が決めるよりも、国民が選挙で選んだ政治家が決めて、最後は国民が選挙で判断した方がいいこと」もあると考えたんだね。

これを「政治的な判断の盾」と呼ぼう。

裁判所はこう言ったんだ。「衆議院の解散のように、国全体の進め方を決める『高度に政治的な問題』は、裁判所が『正しい・間違い』を決めるのには向いていない。それは、政府や国会が国民に対して責任を持って決めるべきことで、最終的には次の選挙で国民が判断することなんだ」って。

つまり、裁判所が立ち入ることができない「政治専用の聖域(クッション)」があることを認めたんだ。

【判決】解散が有効かどうか、裁判所は判断しない!

最高裁判所(昭和35年6月8日)は、次のような答えを出しました。

1. 高度な政治判断には裁判所は口を出さない! 衆議院の解散のように、国家統治の基本に関する高度な政治性のある行為(統治行為)については、裁判所の審査権は及ばない、と判断されました。
2. 最終的には国民が決めること! 解散が正しかったかどうかは、主権者である国民が、その後の選挙を通じて政治的に判断すべきものだと決まったんだ。

【判決の言葉】

補足
最高裁判所の判決(昭和35年6月8日)より
「直接国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為については、……その判断は主権者たる国民に対して政治的責任を負うところの政府、国会等の政治部門の判断に委され、最終的には国民の政治的判断に委ねられている。」

【追記】判決の後、日本はどう変わったの?

この判決によって、日本の政治と裁判の「境界線(ボーダーライン)」がはっきりと引かれたよ。

「7条解散」が日本のルールとして定着した! この判決以降、内閣不信任案が出されていなくても、内閣が「今こそ国民に意見を聴きたい」と判断した時に衆議院を解散するやり方(憲法7条に基づく解散)が、法的に否定されないものとして定着したんだ。
選挙が「最終的な審判」になった! 「解散が不当だ!」と裁判所に訴えるのではなく、次の選挙でその政党に投票するかどうかによって、国民自らが政治の正しさを決めるという民主主義の形が強まったんだよ。
裁判所が政治に巻き込まれなくなった! 裁判所が政治の争いから一歩引くことで、司法の中立性が守られるようになったんだ。でも一方で、「何でもかんでも政治の判断だからと言って、裁判所が逃げているんじゃないか?」という議論も、今でも続いているよ。

まとめ

まとめ

– 国の将来を決めるような「高度に政治的な決断(統治行為)」には、裁判所は口を出さない
– 衆議院の解散が正しいかどうかは、裁判所ではなく「国民が選挙で判断する」のが日本のルール
– これにより、内閣がリーダーシップを持って解散・総選挙を行う仕組みが、憲法上守られるようになったんだね!

「何が正義か」を裁判所が決める場合と、自分たちの「一票」で決める場合がある。法律と政治のバランスを教えてくれる、とても大事な裁判だったんだね。

補足
条文補足:日本国憲法第7条・第69条
第7条(抄):天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。…三 衆議院を解散すること。
第69条:内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。
この判例、ほかの時代の判例ともつながっています
「判例年次索引」で明治〜令和の判例をまとめて見られます。
索引を見る
新着の「ムダ知識」をメールで
週1回、選りすぐりの疑問だけ届きます。
登録する