行政・法律の疑問 読了 4分

税金のルールを「過去」にさかのぼって変えても、理由があればOKだよっていう判例【通知処分取消請求事件】

★ 判例データ

事件名:通知処分取消請求事件
裁判所:最高裁判所
判決日:平成23年9月22日

関係法令:
・憲法84条

論点:
・租税法律主義
・遡及立法の禁止
・損益通算
・法的安定性

結論:
・税制改正を年初にさかのぼって適用しても、合理的な制約として容認される範囲であれば憲法84条に違反しない

こんにちは! 今日は、「後出しジャンケン」みたいなルール変更が許されるのか? という、税金(ぜいきん)にまつわるとっても大切なお話を紹介するよ。

「もう終わったことなのに、後からできたルールで損をさせられるのはおかしい!」と怒った人と、国のあいだで起きたバトルの結果を見てみよう。

【ストーリー】「売った後でルールを変えるな!」 vs 「今年の分はまとめて変更だ!」

市民のAさん

2004年の2月に、長年持っていた土地を売りました。その時の法律では、「売って出た利益(所得)から、他の赤字分を差し引いて、税金を安くできる(損益通算)」というルールだったから、それを信じて売ったんです。
国の役人

あ、そのルール、2004年の4月に「禁止」に変更したんですよ。しかも、「2004年の1月1日にさかのぼって、この1年間の取引すべてに適用する」と決めました。だからAさん、差し引きは認めません。もっと税金を払ってください!
市民のAさん

ええっ!? 4月に決まったルールを、2月の取引に当てはめるなんて、ひどすぎます! それは「後出しジャンケン」じゃないですか。憲法(けんぽう)には、税金のことはあらかじめ「法律」で決めなきゃいけない(租税法律主義)って書いてあります。後から勝手に変えるのは、国民にとっての「落とし穴(不利益な遡及立法)」です!
国の役人

でも、税金の仕組みを途中で変えるときは、その年の最初から一斉にスタートさせないと不公平になってしまうこともあるんです。これは社会全体の利益のために必要なことなんですよ。

【解説】裁判所でのバトル:終わったことへの「後出し」はアリか?

裁判所

二人とも、落ち着いて。今回は、憲法84条が守っている「税金の透明な地図(租税法律主義)」が、過去にさかのぼる変更をどこまで許しているのかを考えよう。

普通、法律というのは「今日からこうしましょう」と未来に向かって決めるもので、過去にさかのぼって「あの時のはダメだったことにします」と言うのは、みんなが安心して生活できなくなるから、基本的にはダメなんだ。これを「不利益な遡及(そきゅう)立法の禁止」というよ。

でも、税金の世界では少し話が違うんだ。裁判所は、次の「3つのポイント」を天秤(てんびん)にかけて判断することにしたよ。

1. 財産の権利をどれくらい変えてしまうか?
2. ルールを変えることで得られる、社会全体の利益(公益)はどれくらい大きいか?
3. みんなが「今のルールは変わらないはずだ」と信じていた度合い(法的安定)はどれくらいか?

裁判所はこの天秤をじっくり見て、「税金のルールは社会や経済の状況に合わせてよく変わるものだし、1年の途中で仕組みを整えるために、その年の最初から適用することは、ある程度は仕方がないよね」と考えたんだ。

つまり、納税者の立場が少し悪くなったとしても、それが社会全体の利益のために「納得できる範囲(合理的な制約)」であれば、憲法違反にはならない、というクッションを置いて判断したんだね。

【判決】1年の範囲内なら、さかのぼってルールを変えてもOK!

最高裁判所(平成23年9月22日)は、次のような答えを出しました。

1. 税金のルールを過去にさかのぼらせることも、理由があれば認められる! 土地を売った後で「やっぱりその節税はダメ」というルールに変わっても、それが同じ年の1月までさかのぼる程度であれば、憲法違反ではないと判断されました。
2. 「法的安定(安心感)」と「公益(社会の利益)」のバランスが大事! 国民が今のルールを信じていたとしても、国が社会全体のことを考えてルールを変える必要性が高い場合は、その変更は「合理的な制約」として許されるのです。

【判決の言葉】

補足
最高裁判所の判決(平成23年9月22日)より
「本件改正附則が憲法84条の趣旨に反するか否かについては、……(中略)……法的安定への影響が納税者の租税法規上の地位に対する合理的な制約として容認されるべきものであるかどうかという観点から判断するのが相当であるところ、……(今回の変更は)納税者の租税法規上の地位に対する合理的な制約として容認される。」

【追記】判決の後、日本はどう変わったの?

この判決によって、日本の税金ルール作りの「境界線(ボーダーライン)」がはっきりしました。

「暦年(れきねん)の途中での変更」が定着した! 税金(所得税など)は1月から12月までの1年単位で計算するため、その年の途中で法律が変わったときに「じゃあ今年の1月からこのルールね」とするやり方が、憲法違反にならないというお墨付きを得た形になりました。
「安心」と「変化」のバランスを国が慎重に考えるようになった! 国はルールを変えるときに、「これは国民にとってあまりにもひどい後出しジャンケンにならないか?」と、この判決で示された「天秤(総合的な勘案)」を意識して、法改正を行う必要が生じました。
「ルールは変わるもの」という意識が広まった! 私たちは「一度決まった税金のルールは絶対だ」と思い込みがちですが、社会の利益のためにさかのぼって変更されるケースがあることを、改めて知るきっかけとなりました。

まとめ

まとめ

– 法律を過去にさかのぼって適用することを「遡及(そきゅう)」と呼ぶ
– 税金の世界では、社会全体の利益のために、その年の最初(1月1日)までさかのぼってルールを変えることが認められる場合がある
– それが許されるかどうかは、個人の安心と社会の利益を天秤にかけて、「納得できる範囲(合理的な制約)」かどうかで決まるんだね!

後出しジャンケンはズルいけれど、みんなの生活を守るために必要なこともある。法律の世界は、いつも「どっちがより大切か」という難しいバランスを考えているんだね!

補足
条文補足:租税特別措置法31条(改正前後)
改正前(〜平成16年3月31日)の措置法31条では、個人の長期譲渡所得は他の所得と区分し、その年中の長期譲渡所得の金額から特別控除額(旧31条4項)を控除した金額に対して税率20%の所得税を課すこととされ、長期譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額がある場合には、当該金額を他の各種所得の金額から控除する損益通算が認められていた(※この部分は逐語の条文ではなく、制度の要旨です)。

改正後(平成16年法律第14号、同年4月1日施行)の措置法31条:
「個人が、その有する土地若しくは土地の上に存する権利(略)又は建物及びその附属設備若しくは構築物(略)で、その年1月1日において所有期間が五年を超えるものの譲渡(略)をした場合には、当該譲渡による譲渡所得については、(略)他の所得と区分し、その年中の当該譲渡に係る譲渡所得の金額(略)に対し、(略)100分の15に相当する金額に相当する所得税を課する。この場合において、長期譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、同法その他所得税に関する法令の規定の適用については、当該損失の金額は生じなかつたものとみなす。」

附則(平成16年3月31日法律第14号)第27条(経過措置):
「新租税特別措置法第31条の規定は、個人が平成16年1月1日以後に行う同条第一項に規定する土地等又は建物等の譲渡について適用し、個人が同日前に行った旧租税特別措置法第31条第1項に規定する土地等又は建物等の譲渡については、なお従前の例による。」

出典:MJS租税判例研究会 第43回資料(2012年2月3日、藤井茂男税理士発表)

補足
条文補足:日本国憲法第84条
あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。
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