事件名:損害賠償請求上告、同附帯上告事件(「エホバの証人」輸血拒否事件)
裁判所:最高裁判所
判決日:平成12年2月29日
関係法令:
・日本国憲法13条(幸福追求権・自己決定権・人格権)
・民法709条(不法行為)
論点:
・宗教的信念に基づく輸血拒否の自己決定権
・人格権としての意思決定権
・医師の説明義務違反と不法行為責任
結論:
・輸血拒否の意思決定権は人格権の一内容として尊重される。説明せずに輸血した医師の行為は不法行為にあたる
こんにちは! 今日は、病院で治療を受けるときに「自分の生き方や信じていること」と、「お医者さんの『命を助けたい』という思い」がぶつかったときのお話だよ。 「自分の体に関することを自分で決める権利」について、最高裁判所がとても大切な答えを出した事件を見てみよう。
【ストーリー】「信念のために輸血は拒否します」 vs 「でも、死なせるわけにはいかない」
私は「エホバの証人」という宗教を信じています。私の信念では、どんなことがあっても「輸血」を受けることはできません。もし輸血をされたら、私の魂や人格はボロボロになってしまいます。
Aさん、あなたの病気を治すには手術が必要です。もちろん、できるだけ輸血をしないように努力しますが、もしもの時は輸血をしないと、あなたの命が危なくなってしまいますよ。
それでも構いません。「輸血をしない」という私の意思を尊重してください。絶対に輸血はしないでくださいね。
……困ったな。でも、患者さんを死なせるわけにはいかない。手術中にどうしても必要になったら、内緒で輸血をするしかないだろう。そのことは、あえて詳しく説明しないでおこう。
その後、手術中にAさんは意識がない状態で輸血を受けました。後でそれを知ったAさんは、「私の人格を傷つけられた!」として裁判を起こしました。
【解説】裁判所でのバトル:「自己決定権」と「人格権」が守るもの
今回のバトルのポイントは、憲法13条という「魔法のポケット(幸福追求権)」から導き出される、「自己決定権」という考え方だよ。
病院の先生たちは「命を救うことが一番の正義だ」と考えたけれど、裁判所はこう考えたんだ。 「人間には、自分らしく生きるために、自分の体についての治療をどうするか、自分で決める権利がある。特に、宗教的な信念に関わることは、その人の『人格』そのものなんだ」ってね。
さらに、裁判所はお医者さんの「説明する義務」についても厳しく指摘したよ。 「もし、患者さんの希望通りにいかない可能性があるなら、それをちゃんと説明して、患者さんが『じゃあ、この病院はやめて別の病院に行こう』と選べるようにしなければならなかったんだ」と判断したんだね。
【判決】輸血を拒否する意思は「人格権」として尊重されるべき!
最高裁判所(平成12年2月29日)は、次のような答えを出しました。
1. 「輸血拒否」の意思決定は人格権の一部! 患者が宗教上の信念から「輸血を受けたくない」とはっきり決めている場合、その意思決定をする権利は、人格権の一内容として尊重されなければなりません。
2. 病院側は「説明不足」で責任がある! 医師が「輸血をする可能性がある」ことを隠して手術を行い、患者の選ぶチャンスを奪ったことは、不法行為にあたると判断されました。
【判決の言葉】
最高裁判所の判決(平成12年2月29日)より
「患者が、輸血を受けることは自己の宗教上の信念に反するとして、輸血を伴う医療行為を拒否するとの明確な意思を有している場合、このような意思決定をする権利は、人格権の一内容として尊重されなければならない。」
【追記】判決の後、日本はどう変わったの?
この判決は、日本の医療の現場と法律の考え方に、とても大きな変化をもたらしたよ。
– 「インフォームド・コンセント(納得のいく説明)」が当たり前になった! 「先生にお任せ」ではなく、「先生がちゃんと説明し、患者が納得して選ぶ」という今の日本のスタイルが、この判決でより確かなものになったんだ。
– 「自己決定権」という言葉が力をもった! この事件は、憲法上の「自己決定権」を認めた代表的なケースとして語られるようになったよ。
– 病院のルール(マニュアル)が作られた! 全国の病院では、「もし輸血を拒否する患者さんが来たらどう対応するか」という特別なルール(「無輸血治療」のガイドラインなど)が作られるようになったんだ。
– 尊厳死などの議論の土台になった! 「命を延ばすこと」だけが医療の目的ではなく、「その人らしい最期や生き方」を大切にする今の日本の考え方に、大きなヒントを与えた事件だったんだね。
まとめ
– 自分の体のことを自分で決める「自己決定権」は、とても大事な権利
– それは宗教の自由だけでなく、「人格権(自分らしさ)」として守られる
– お医者さんは、患者さんが「自分で選べる」ように、しっかり説明する義務があるんだね!
「命を救う」という善意であっても、その人自身の「心の自由」や「生き方」を無理やり変えることはできない。そんな、人間一人ひとりの重みを教えてくれる、とっても大切なお話だったんだよ。
条文補足:日本国憲法第九十四条
地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。
条文補足:地方自治法第十四条
普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて第二条第二項の事務に関し、条例を制定することができる。普通地方公共団体は、義務を課し、又は権利を制限するには、法令に特別の定めがある場合を除くほか、条例によらなければならない。普通地方公共団体は、法令に特別の定めがあるものを除くほか、その条例中に、条例に違反した者に対し、二年以下の拘禁刑、百万円以下の罰金、拘留、科料若しくは没収の刑又は五万円以下の過料を科する旨の規定を設けることができる。