理科っぽい疑問 読了 7分

アボガドロ定数6.02×10²³は、どうやって算出されたのか?

化学の授業で必ず出てくる、6.02×10²³という数字。
モルという単位とセットで覚えさせられた人も多いはずです。

でも、よく考えると不思議な話です。
原子1個を直接数えることなんてできないのに、いったいどうやってこんな桁の数字を求めたのでしょうか。

アボガドロ定数の概要図

★ この記事でわかること

– アボガドロ定数がそもそも何を表している数なのか
– 「数えられないもの」を数えるために科学者が使った間接的な方法
– 現在、この数字がどうやって決められているのか

そもそもアボガドロ定数とは

アボガドロ定数とは、「物質1モルの中に含まれる粒子の数」を表す定数です。
値は約6.02×10²³(個/モル)。これだけの数の原子や分子が集まると、ようやく私たちが手に取れる「グラム」「リットル」というスケールの物質になります。

用語モルもる

化学で使う物質量の単位。1モルは、アボガドロ定数個(約6.02×10²³個)の粒子の集まりを指す。「個数を数える代わりに、まとめて重さや体積で扱う」ための単位だと考えると分かりやすい。
読者

そもそも、なんでこんな半端な数を基準にしたんですか?
ムダシル

半端に見えますが、これは「炭素12グラムの中に、原子が何個入っているか」を測った結果なんです。きれいな数になるように決めたわけではなく、現実の物質を測ったら、たまたまこの桁になった――というのが歴史的な順番なんですよ。
読者

なんでアボガドロという名前なんですか?
ムダシル

アメデオ・アボガドロというイタリアの科学者の名前から来ています。彼は1811年、「同じ温度・同じ圧力なら、同じ体積の気体には同じ数の粒子が含まれている」という仮説を提唱しました。これが後に「アボガドロの法則」と呼ばれるようになります。ただ、おもしろいのは、アボガドロ自身はこの定数の値を測定したわけではないということ。後の科学者たちが、彼の仮説を出発点にして実際の数値を求め、その功績に敬意を表してこの名前を付けたんです。

なぜ「数える」必要があったのか

原子や分子は、あまりにも小さくて軽すぎます。
1個の重さをそのまま天秤で測ることはできません。だからこそ化学者たちは、「物質量(モル)」という単位を使って、原子をひとつずつ数える代わりに、まとめて重さで扱う方法を考え出しました。

ただ、それでも「1モルの中に実際は何個の粒子が入っているのか」を知らなければ、ミクロな原子の世界と、私たちが目にするグラム・リットルの世界を正確につなぐことができません。
この橋渡しの数字こそが、アボガドロ定数だったのです。

直接数えられないものを、どう求めたのか

読者

原子を1個ずつ数えるなんて無理ですよね。じゃあ、どうやって求めたんですか?
ムダシル

直接は数えられないので、別の方法で測れる量から、計算でアボガドロ定数を逆算したんです。代表的なのが、電気分解を使った方法です。

19世紀末から20世紀初頭、科学者たちは電気分解の実験に注目しました。
電気分解では、流した電気の量と、電極に付着する物質の重さに、ある決まった関係があります。

ここで重要になるのが、電子1個が持つ「電気の最小単位」です。
ロバート・ミリカンは、油滴を使った精密な実験でこの電子1個分の電荷を測定しました。

ロバート・ミリカンの油滴を使った精密な実験について

ミリカンが1909年から行ったこの実験は、シンプルながら巧妙な仕掛けでした。

霧吹きで細かい油の粒(油滴)を作り、2枚の電極板の間にスプレーします。油滴は空気との摩擦やX線の照射によって、わずかに静電気を帯びます。

何も電圧をかけない状態では、油滴は重力に引かれてゆっくり落下します。この落下速度を顕微鏡で測ると、空気の粘り気(粘性)から逆算して、油滴の大きさと重さを求めることができます。

読者

重さが分かったとして、そこからどうやって電気量を求めるんですか?
ムダシル

ここからが本番です。今度は電極板に電圧をかけます。油滴が帯びた電気と電場の力が、ちょうど重力と釣り合う電圧に調整すると、油滴は空中でぴたりと止まって動かなくなるんです。この「重力と電気の力が釣り合う」という条件式から、その1粒の油滴が持っている電気量を計算できます。

ミリカンは、この測定を何百個もの油滴に対して、地道に繰り返しました。
すると、油滴ごとに測定された電気量の値は、てんでバラバラな数字ではなく、ある決まった値の整数倍(1倍、2倍、3倍…)にしかならないことが分かったのです。

つまり、電気には「これ以上は分割できない最小の単位」が存在する。ミリカンが導き出したのは、まさにこの最小単位――電気素量だったのです。

補足
この油滴実験は、装置自体は比較的シンプルなのに結果が驚くほど明快だったことから、物理学史に残る名実験とされています。ミリカンが得た測定値は、現在採用されている電気素量(約1.602×10⁻¹⁹クーロン)とほぼ一致しており、この功績により1923年にノーベル物理学賞を受賞しました。
用語電気素量でんきそりょう

電子1個が持つ電気量の大きさ。これより小さい単位の電気は存在しないとされる、電気の「最小単位」。

電気分解には、19世紀にマイケル・ファラデーが見つけた法則があります。電極で生成される物質の量は、流した電気の量に比例する、というものです。

たとえば、銀イオンのように「電子を1個受け取って金属になる」物質であれば、電気分解で生成された銀の物質量(モル数)を量れば、「何モル分の電子が流れたか」を実験的に求めることができます。

ここで定義されるのがファラデー定数です。

用語ファラデー定数ふぁらでーていすう

電子1モル分が運ぶ電気量の大きさ。記号はF。電気分解の実験から、約96,485クーロン/モルという値が得られている。

このファラデー定数には、次のようなシンプルな関係があります。

ファラデー定数 = 電気素量 × アボガドロ定数

電子1個分の電気量(電気素量)に、1モルに含まれる電子の数(アボガドロ定数)を掛けたものが、電子1モル分の電気量(ファラデー定数)になる、というだけの話です。

ということは、この式を変形すれば──

アボガドロ定数 = ファラデー定数 ÷ 電気素量

電気分解の実験から求めたファラデー定数を、ミリカンが油滴実験で求めた電気素量で割るだけで、アボガドロ定数が計算できてしまうのです。

読者

実際の数字を入れるとどうなるんですか?
ムダシル

ファラデー定数は約96,485クーロン/モル、電気素量は約1.602×10⁻¹⁹クーロンです。96,485を1.602×10⁻¹⁹で割ると、約6.02×10²³。きれいにアボガドロ定数の値が出てくるんです。

電気分解という、19世紀から知られていたなじみのある現象と、ミリカンが油滴実験で測った「電気の最小単位」。この2つの数字を組み合わせるだけで、誰も直接数えたことのない「1モルあたりの粒子数」が、机の上の計算で求まってしまう──これが、間接的にアボガドロ定数を導き出す方法の核心でした。

FIG.1 — アボガドロ定数を求めた2つの経路

電気分解とケイ素結晶の方法が、ともにアボガドロ定数に収束する図
補足
同じ時期、物理学者ジャン・ペランは、液体中で微粒子がランダムに揺れ動く「ブラウン運動」を観察する、まったく別の方法でもアボガドロ定数に近い値を導きました。電気分解と、揺れ動く粒子の運動。一見まったく関係なさそうな2つの現象から、似た数字が出てきたことが、この値の信頼性を大きく高めました。

現在は「結晶を測って数える」方法に進化した

20世紀後半になると、もっと精密な方法が登場します。
それが、ケイ素の結晶を使った方法です。

ケイ素の結晶は、原子がきれいに規則正しく並んだ構造をしています。
科学者たちは、超高純度のケイ素から完璧な球をつくり、その球の重さ・体積・密度を極めて精密に測定しました。

さらに、X線を結晶に当てると、原子の並び方に応じて特有の模様(回折パターン)が現れます。
このパターンを解析すれば、結晶の中で原子と原子がどれくらいの間隔で並んでいるかが分かります。

球の体積を、原子1個あたりが占める体積で割れば――理論上、球の中に入っている原子の総数が分かります。
この「結晶を測って原子の数を求める」手法によって、アボガドロ定数はそれまでよりはるかに高い精度で決定されました。

そして2019年、国際単位系(SI)の改定によって、アボガドロ定数は6.02214076×10²³ /モルという値に固定されました。
今ではこの数字自体が「測って決める対象」ではなく、他の単位を定義するための「基準」として使われています。

まとめ:数えられないものを、測って計算する

まとめ

– アボガドロ定数は、原子の世界と私たちが扱えるグラム・リットルの世界をつなぐ橋渡しの数字
– 原子を直接数える代わりに、電気分解やブラウン運動など、測定可能な現象から逆算して求められた
– 現在はケイ素の結晶球をX線で解析する方法で精密に決定され、2019年に定数として固定された

6.02×10²³という数字は、誰かが思いつきで決めたものではありません。
「数えられないものを、なんとかして数えよう」とした科学者たちの工夫の積み重ねが、この一行の数字に詰まっています。

次に教科書でこの数字を見かけたら、その裏にある「測って計算する」という発想を、少し思い出してみてください。

参考文献:Millikan, R. A. The Electron: Its Isolation and Measurement and the Determination of Some of Its Properties. University of Chicago Press, 1917.

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