行政・法律の疑問 読了 5分

お役所の管理ミスでお馬さんがケガ!? 昔の日本で「お上の責任」を初めて認めた判例【大正5年の道路事故】

★ 判例データ

事件名:損害賠償請求ノ件(大審院判決・国家無答責の原則)
裁判所:大審院
判決日:大正5年6月1日

関係法令:
・明治憲法(国家無答責の原則)
・民法(不法行為)

論点:
・国家無答責の原則と損害賠償請求
・権力的作用に対する国家賠償の否定
・明治憲法下の国家責任

結論:
・明治憲法下では、国家の権力的作用による損害について国は賠償責任を負わない(国家無答責)

読者のみなさん、こんにちは! 今日は、今から110年ほど前、まだ日本に「国家賠償法」という法律がなかった時代の、歴史を動かした道路事故のお話を紹介するよ。
「お役所(国)がしたことは絶対に正しいから、文句は言えない」という「国家無答責(こっかむとうせき)」という厳しいルールが当たり前だった時代に、一人の勇気ある市民が「道路の管理が悪いのはお役所のせいだ!」と訴えた事件なんだ。

【ストーリー】「道に穴が開いてるなんて危ない!」 vs 「お上は責任を負いません」

馬車の持ち主Aさん

大変だ! 北海道の公道を馬車で走っていたら、道路が崩れて崖の下に落ちてしまった。大切なお馬さんが大ケガをして、商売ができなくなっちゃったよ!
お役所の担当者

それはお気の毒に。でも、この道は「公立の道路」です。私たちお役所が国のお仕事として管理しているものです。
Aさん

お仕事なら、なおさらちゃんと管理してくれないと困ります。穴が開いたまま放っておくなんて、管理ミスじゃないですか! お馬さんの治療費と修理代を払ってください!
担当者

裁判官さん、聞いてください。大日本帝国憲法の下では、お上が行う「公のお仕事(公権力の行使)」については、たとえミスがあっても国民に賠償する義務はないというルール(国家無答責)があります。
担当者

だから、道路が壊れていようが、崖が崩れようが、国がお金を払う必要はないんです。Aさんはあきらめるしかありません!

【解説】裁判所でのバトル:登場!「お役所の二つの顔」と「民法の魔法」

「二人とも落ち着いて。今回のバトルのポイントは、お役所が道路を管理していることが、『お上の命令』なのか、それとも『ただの建物の管理人』と同じなのか、ということなんだ」。

1. 「お上は無敵」の壁:
昔の日本では、警察が泥棒を捕まえたり、役所が命令を出したりする「権力的なお仕事」で失敗しても、国が責任を取ることはありませんでした。

2. 「建物の管理人」としての顔:
でも、裁判所はこう考えたんだ。「道路や建物を管理するのは、普通の大家さんがアパートを管理するのと似ているよね。これは『偉いお上の命令』ではなく、『物をもっている人の責任』の話だ」。

3. 「民法717条」という魔法の杖:
「普通の人がもっている建物が壊れて誰かがケガをしたら、管理人がお金を払うというルール(民法717条:土地の工作物責任)がある。お役所が管理している道路だって、同じ『工作物』なんだから、このルールをあてはめてもいいはずだ!」と判断したんだ,。

つまり、「お上だからって、物の管理ミスで誰かを傷つけていいわけじゃない」という正義が認められたんだね。

【判決】道路の管理ミスは、民法のルールでお役所が責任を負う!

大審院(現在の大最高裁判所、大正5年6月1日)は、次のような答えを出しました。

1. 民法が適用される!
公の営造物(道路や橋など)の設置・管理といった「非権力的な行政活動」については、国や地方公共団体も、民法717条が定める土地の工作物責任によって損害賠償責任を負います。
2. 「無敵」ではない!
国や公共団体が行う活動のすべてについて、損害賠償が否定されるわけではないということがハッキリしました。

【判決の言葉】

> 大審院の判決(大正5年6月1日)より(趣旨)
> 「公の営造物の設置又は管理に瑕疵(かし:ミス)があったために他人に損害を生じたときは、……民法第717条を準用して、国又は公共団体はその賠償の責めに任ずべきである。」,

【追記】判決の後、日本はどう変わったの?

この判決は、その後の日本の「お役所と国民のバランス」を劇的に変えるきっかけになったよ。

* 「お役所を訴える道」が初めて開かれた!
それまでは「泣き寝入り」するしかなかったお役所のミスに対して、民法という「普通のルール」を使って戦えるようになったんだ。これが今の日本の「法治主義」の大きな第一歩になったよ。
* 「国家賠償法2条」のモデルになった!
戦後になって、日本国憲法ができるとともに「国家賠償法」という新しい法律が作られたけれど、その中の「道路や河川のミスで損害が出たら、お役所が責任を負う」という2条のルールは、この大正時代の判決を元にして作られたんだ,,。
* 道路や施設の安全性がアップした!
「管理ミスでお金を取られるかもしれない」とお役所が意識するようになったことで、全国の道路や橋、公園などのメンテナンスがより真剣に行われるようになり、私たちの生活の安全が守られる社会になっていったんだね。

まとめ

* 昔は「お役所は絶対に責任を取らない」という厳しい時代があった。
* でも、道路の穴のような「物の管理ミス」は、「民法のルール」で解決できるとされた。
* この判決のおかげで、今の日本は「お役所の管理ミスでケガをしたら、ちゃんと賠償してもらえる」という当たり前の権利が守られているんだね!

「たとえ相手が大きな国であっても、間違っていることは間違っていると言える」。そんな今の日本の法律の「優しさ」と「強さ」の根っこにある、とても勇気あふれる判例だったんだよ。

補足
条文補足:民法第七百十七条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。
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