行政・法律の疑問 読了 5分

お上の決めた「ルール」は、すぐには訴えられない!? 裁判の「対象」を決めた超・有名判例【東京都ごみ焼却場事件】

★ 判例データ

事件名:ごみ焼却場設置条例無効確認等請求上告事件(東京都ごみ焼却場事件)
裁判所:最高裁判所
判決日:昭和39年10月29日

関係法令:
・行政事件訴訟法(処分性)
・地方自治法(条例)

論点:
・条例の処分性(当時の判断)
・行政立法と取消訴訟の対象
・条例による施設設置の争い方

結論:
・条例は一般的・抽象的規範であり原則として処分性を有しない

こんにちは! 今日は、日本の行政裁判の歴史の中で、もっとも有名といっても過言ではない「行政処分(ぎょうせいしょぶん)」という言葉の定義を決めた裁判を紹介するよ。
「役所がやることなら、何でもすぐに裁判で訴えられるの?」という疑問に、最高裁判所が明確な「ものさし」を示した、とっても大切なお話なんだ。

【ストーリー】「近所にごみ焼却場ができるなんて嫌だ!」 vs 「これはただの『条例』ですよ」

近所の住民さんたち

東京都が「この場所に新しいごみ焼却場を作る」という条例(じょうれい)を作ったと聞きました。あんな大きな施設が家の近くにできたら、煙や臭いで私たちの生活がめちゃくちゃになってしまいます。裁判所さん、この条例を無効にして、設置を止めてください!
東京都の担当者

住民さんの気持ちは分かりますが、まだ条例ができただけです。条例は議会が決めた「みんなに関係する一般的なルール」であって、住民のみなさんに直接「何かをしなさい」と命令したわけではありません。
住民さんたち

でも、この条例があるから焼却場が作られるんでしょ? 焼却場ができるのを待っていたら、もう手遅れです。ルール(条例)ができた時点で、私たちの生活する権利が脅かされているんです!
東京都の担当者

裁判のルール(行政事件訴訟法)では、「行政処分」に対してしか、取消しの裁判は起こせません。この条例は、特定の誰かの権利を今すぐ奪う「処分」ではないので、裁判の対象にはならないはずです。

【解説】裁判所でのバトル:登場!「処分のボタン(行政処分)」という定義

「二人とも落ち着いて。今回のバトルのポイントは、役所のどんな行いなら裁判で訴えることができるのか、その『合格ライン(定義)』を決めることなんだ」

裁判所はこの難しい問題に、今でも教科書に載り続けている「魔法の定義」を与えたよ。

1. 「行政処分(ぎょうせいしょぶん)」の正体:
裁判所はこう言ったんだ。「裁判で取り消すことができる『行政処分』とは、①公権力をもった国や役所が行うことで、②法律に基づいて、③直接、国民の権利や義務を新しく作ったり、範囲を決めたりするもののことだよ」ってね,。

2. 条例は「一般的なルール」:
今回の「ごみ焼却場設置条例」については、こう判断したよ。「条例は、あくまで役所の中に『ここに焼却場を作りなさい』という方針を決めただけ。住民の誰かに対して、直接的に義務を課したわけではない。だから、この条例はまだ『処分のボタン』が押された状態ではないんだよ」。

つまり、条例の段階では「まだ裁判をするタイミングではない」として、住民の訴えを退けたんだ。

【判決】条例は「行政処分」ではないので、裁判で取り消すことはできない!

最高裁判所(昭和39年10月29日)は、次のような答えを出しました。

1. 「行政処分」の定義を確定!
行政処分とは、公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいいます,。
2. この条例には「処分性」がない!
ごみ焼却場設置条例は、地方公共団体の内部的な決定(方針)を示すものにすぎず、直接住民の権利義務に影響を与えるものではないため、取消訴訟の対象にはなりません。

【判決の言葉】

> 最高裁判所の判決(昭和39年10月29日)より
> 「行政庁の処分とは、公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によつて、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものをいう。」,

【追記】判決の後、日本はどう変わったの?

この判決は、日本の裁判の「入り口」を整理する、決定的な役割を果たしたよ。

* 「行政処分」という言葉が、日本の法律のスタンダードになった!
この裁判で示された「直接、国民の権利義務を動かすもの」という定義は、その後、行政手続法や行政不服審査法など、あらゆる法律で「行政処分」という言葉を解釈する際の共通の物差しになったんだ。
* 「いつ、何を訴えるべきか」が明確になった!
「お上が何か決めた」というだけで何でも裁判にするのではなく、「自分の権利が直接侵害された瞬間(処分が出た時)」に戦う、という日本の裁判の基本的な流れが作られたんだ。
* でも……時代とともに進化している!
「条例は処分ではないから絶対に訴えられない」というこの時のルールは、2009年の「横浜市保育所廃止事件」によって、少しだけ変わったよ。その事件では、「特定の子供たちだけを狙い撃ちにして、通う権利を奪う条例」なら、例外的に「処分と同じだ」として裁判が認められるようになったんだ,,。

まとめ

* 「行政処分」とは、「国が直接、私たちの権利や義務を決めること」!
* 原則として、みんなに向けた一般的なルールである「条例」は、行政処分ではない。
* この判決が作った「行政処分の定義」は、今でも日本のすべての自治体職員が学ぶ、もっとも基礎的なルールになっているんだね!

「何が裁判の対象になるのか」という、今の日本の公正なルールの出発点となった、とても歴史的な事件だったんだよ。

この判例、ほかの時代の判例ともつながっています
「判例年次索引」で明治〜令和の判例をまとめて見られます。
索引を見る
新着の「ムダ知識」をメールで
週1回、選りすぐりの疑問だけ届きます。
登録する