行政・法律の疑問 読了 5分

悪いことをしたなら「お金を返せ」は言えない!? 「不法」のハードルを決めた判例【不法原因給付:寛永代金請求事件】

★ 判例データ

事件名:寛永代金請求上告事件
裁判所:最高裁判所
判決日:昭和37年3月8日

関係法令:
・国有財産法(行政財産の使用料)
・民法(不当利得)

論点:
・行政財産の無断使用と不当利得返還請求
・行政財産の使用と対価の問題
・民事上の不当利得と行政財産管理

結論:
・行政財産を無断で使用した場合、行政は民事上の不当利得として使用料相当額の返還を請求できる

読者のみなさん、こんにちは! 今日は1962年(昭和37年)に出された、「悪いことをするためにお金を払った場合、後で『やっぱり返して』と言えるのか?」という、人間の「誠実さ」を問うとても有名な裁判を紹介するよ。

民法には「不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還請求をすることができない」という、不法原因給付(民法708条)というルールがあるんだ。この裁判は、その「不法」の基準をどこに置くかをハッキリ決めた、歴史的な事件なんだよ。

【ストーリー】「闇取引の代金を返せ!」 vs 「悪いことしたんだから返しません」

お金を払ったAさん

おい、約束が違うじゃないか! あなたの持っている寛永通宝(古銭)を大量に買う契約をして、先にお金を支払ったのに、いつまで経っても品物が届かない。この契約は、当時のルール(物価統制令など)に違反している「いけない取引(無効な契約)」だったんだ。だったら、支払ったお金を返してくれ!
お金を受け取ったBさん

Aさん、何を言っているんですか。たしかにこの取引はルール違反(違法)かもしれません。でも、あなたも「いけないこと」だと知っててお金を払ったんでしょう?
Bさん

裁判官さん、聞いてください。民法708条には、「悪い理由でお金を渡した(不法原因給付)なら、返せとは言えない」というルールがあります。Aさんは自分でルールを破ってまで取引しようとしたんだから、今さらお上に泣きついてお金を取り戻そうなんて、図々(ずうずう)しいですよ!
Aさん

ただのルール違反を、民法のいう「不法(悪いこと)」と一緒にしないでください! お金をだまし取られた私の方が可哀想じゃないですか!

【解説】裁判所でのバトル:登場!「クリーンハンズ」と「醜悪さの物差し」

「二人とも落ち着いて。今回のバトルのポイントは、民法がいう『不法』とは、単なる『法律違反』のことなのか、それとももっと『道徳的に悪いこと』なのか、ということなんだ」

1. 「クリーンハンズ」の教え:
このルールの根っこには、「汚れた手をもつ者は、裁判所に助けを求めてはならない」というクリーンハンズの原則があるんだ。悪いことをした人を、国がわざわざ手助けしてあげる必要はないよね、という考え方だよ。

2. 「不法」の本当の意味:
でも、世の中には「うっかりルールを忘れた」ような軽い法律違反から、「殺人や強盗の報酬」のような恐ろしい悪事までいろいろある。裁判所はこう考えたんだ。「民法708条のいう『不法』とは、単なる法律違反(強行規定違反)のことじゃない。社会生活や社会感情に照らして、本当に倫理や道徳に反する『醜悪(しゅうあく)なもの』である必要があるんだ」。

3. 線引きの基準:
「もし『ちょっとしたルール違反』ですべてお金が返せなくなるとしたら、かえってお金を受け取った人がラッキー(不当利得)になって不公平だよね。だから、返還を拒めるのは、『それは人間としてあんまりだ(醜悪だ)』と言われるような悪事に限るんだよ」という「魔法の物差し」を示したんだね。

【判決】単なるルール違反なら「お金を返せ」と言ってもいい!

最高裁判所(昭和37年3月8日)は、次のような答えを出しました。

1. 「不法」の定義を限定!
民法708条にいう「不法」とは、単に強行規定(法律のルール)に違反するだけでなく、その行為が「実質的に社会の倫理や道徳に反する醜悪なもの」であることを意味します。
2. 本件は「不法」ではない!
今回の古銭の取引のような、行政上のルール(物価統制令)に違反するだけの行為は、そこまで「醜悪」とはいえない。したがって「不法原因給付」にはあたらず、支払ったお金の返還を求めることができると判断されました。

【判決の言葉】

> 最高裁判所の判決(昭和37年3月8日)より
> 「(民法708条のいう不法とは、)単に給付の原因となつた行為が強行法規に違反するというだけでは足りず、それが社会生活および社会感情に照らし、真に倫理、道徳に反する醜悪なものと認められるか否かによつて決せらるべきものである。」

【追記】判決の後、日本はどう変わったの?

この判決は、日本のビジネスの現場に「公平さ」と「けじめ」をもたらしたよ。

* 「うっかりミス」が救われるようになった!
この判決のおかげで、許可を忘れた取引(例:無許可の食肉販売)のような、倫理的にはそこまで悪くないけれど法律に触れてしまったケースでも、「契約が無効ならお金は返すべき」という当たり前の常識が守られるようになったんだ。
* 「本当の悪事」がハッキリした!
一方で、愛人関係の維持のためのプレゼント(公序良俗違反)や、賭博の負け金、裏口入学の依頼金などは、今でも「醜悪な不法」として、絶対に返してもらえないことがハッキリしているんだ。
* 不当利得のバランスがとれた!
「悪いことをしたから全部没収」ではなく、「どちらがより悪いか(不法の比較)」という公平な視点が生まれた。これにより、お互いにルールを破ったときに、一方だけが得をして逃げ得になるような不公平を防ぐことができるようになったんだよ。

まとめ

* 「不法原因給付」とは、悪いことをした人は裁判所に助けてもらえないルール。
* でも、その「悪いこと(不法)」とは、単なる法律違反ではなく、「道徳的にみて醜悪なもの」に限る!
* この判決のおかげで、今の日本は「うっかり違反」と「本当の悪事」をしっかり区別して、公平な解決ができるようになっているんだね!

「ルールを守ることは大切。でも、それを破ったからといって何でも許されないわけではない」。人の道に外れているかどうかを一番大切に考えた、とても納得感のある判例だったんだよ。

補足
条文補足:民法第七百八条(不法原因給付)
不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない。
この判例、ほかの時代の判例ともつながっています
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