行政・法律の疑問 読了 4分

自分の権利でも「いじわる」に使っちゃダメ!っていう判例【宇奈月温泉事件】

★ 判例データ

事件名:妨害排除請求事件(宇奈月温泉事件)
裁判所:最高裁判所
判決日:昭和10年10月5日

関係法令:
・民法
・自治体法

論点:
・権利の濫用

結論:
・記事本文参照

自分の権利でも「いじわる」に使っちゃダメ!っていう判例【宇奈月温泉事件】

読者のみなさん、こんにちは! 今日は1935年(昭和10年)10月5日に、当時の最高裁判所(大審院)が出した、「自分の持ち物(権利)なら、どんなわがままを言ってもいいの?」という、今の日本の法律の「優しさのルール」の原点になった超有名な裁判を紹介するよ。

「ここは僕の土地だから、1ミリでもはみ出すな!」という言い分が、もし「いじわる」目的だったらどうなるのか? 温泉街で起きた大逆転のストーリーを見てみよう。

【ストーリー】「1本のパイプ」 vs 「温泉街のピンチ」

いじわるなAさん

ふふふ。宇奈月温泉(富山県)の温泉を運ぶパイプが、山の中を通っているな。おや、あそこのたった「2坪(約6平方メートル)」の土地だけ、温泉会社の持ち物じゃないぞ。よし、あそこを安く買い取っちゃおう!
温泉会社の人

……えっ! Aさん、その崖っぷちの小さな土地を買ったんですか? そこ、うちの温泉パイプがほんの少しだけ通らせてもらっている場所なんです。
Aさん

そうだよ。ここは「僕の土地」だ。許可なくパイプを通すなんて許さないぞ! 今すぐパイプを全部撤去して、土地を返してくれ!
温泉会社の人

そんな! このパイプは温泉街全体に繋がっているんです。ここを壊したら、街中の温泉が止まってしまいます。その土地は崖で、Aさんも使い道がないでしょう? 相談させてください!
Aさん

嫌だね。どうしてもパイプを置きたければ、この土地を「買った時の100倍以上の値段」で買い取るんだな! さあ、壊すか、大金を払うか、どっちだ!
温泉会社の人

それはあんまりです……。自分の権利だからって、人を困らせるためだけに使うなんて。裁判官さん、助けてください!

【解説】裁判所でのバトル:登場!「魔法のブレーキ(権利の濫用)」

「二人とも落ち着いて。今回のバトルのポイントは、『法律で認められた権利』には、ブレーキをかけるルールがあるのか、ということなんだ」。

1. 「所有権」という最強の盾: 日本のルールでは、自分の土地(所有権)を守る権利はとても強いものだよ。普通なら、勝手にパイプを置いている方が負けてしまうんだ。

2. いじわるはルール違反!: でも、裁判所はこう考えたよ。「Aさんの目的は、土地を使うことじゃなくて、温泉会社を困らせて大金をせしめること(いじわる)だよね。Aさんには何のトクもないのに、相手にはめちゃくちゃ大きな損害を与える。これって、『権利の使い方』が間違っているんじゃないかな?」。

3. 魔法の言葉「権利の濫用(けんりのらんよう)」: そこで裁判所は、「権利の濫用」というルールをはっきりと認めたんだ。これは、「たとえ法律上の権利があっても、公共の利益に反したり、ただの嫌がらせだったりする場合には、その権利は使えません!」という、自分勝手な振る舞いにブレーキをかける魔法のルールなんだよ。

【判決】嫌がらせ目的の「出ていけ!」は認められない!

大審院(昭和10年10月5日)は、次のような答えを出しました。

1. 「権利の濫用」にあたる! Aさんの請求は、自分にはほとんど利益がないのに、相手にだけ莫大な損害を与えるものであり、実質的にはただの「いじわる」である。
2. 訴えは認めない! このような「権利の濫用」は法律が許さないので、例え自分の土地であっても、パイプを壊せという請求は認められません。

【判決の言葉】

補足
「……権利の行使が、ただ相手方に損害を与え、苦痛を及ぼすことを目的とするにすぎない場合、又は……社会観念上、権利の行使として容認しうる範囲を逸脱するときは、これを『権利の濫用』として、その効力を認めない……(参照:大判昭10・10・5民集14巻1965頁)」

判決の後、日本はどう変わったの?

この判決は、日本の法律の歴史をガラッと変える大きなきっかけになったよ。

– 「民法1条」に書き込まれた! この事件のあと、戦後の民法改正で「権利の濫用は、これを許さない」というルールが、なんと民法の「第1条」(一番最初の大切なルール)に正式に書き込まれたんだ。
– 「わがまま」が通らない社会へ 「自分の勝手だろ!」という主張が通用しなくなったんだ。お互いに譲り合い、誠実に付き合うこと(信義誠実の原則)が、日本の法律の最も根本的な考え方として定着したんだよ。
– 「相隣関係(お隣さんルール)」の基礎になった この考え方は、今の「お隣さんの家がはみ出してきたとき」や「お役所が土地を管理するとき」など、私たちの身近なトラブルを解決する際のものさしとして、今でも毎日使われているんだ。

まとめ

– 自分の持ち物(権利)であっても、「嫌がらせ」や「いじわる」に使ってはいけない!
– 相手にだけ大損害を与えるようなわがままを、「権利の濫用」と呼んで禁止した歴史的な裁判!
– この事件のおかげで、今の日本は「お互いを思いやる心」が法律の土台になっているんだね!

「ルールは人を幸せにするためにある」。そんな法律の本当の役割を教えてくれた、富山の温泉街から生まれたとても大切な教訓なんだよ。

補足
条文補足:民法第一条(基本原則)
私権は、公共の福祉に適合しなければならない。権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。権利の濫用は、これを許さない。
この判例、ほかの時代の判例ともつながっています
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