事件名:損害賠償請求事件(種痘禍事件上告審判決)
裁判所:最高裁判所
判決日:平成3年4月19日
関係法令:
・予防接種法
・国家賠償法1条
論点:
・予防接種(種痘)の副作用被害と国の賠償責任
・許容可能な危険の理論
・予防接種のリスクと公衆衛生の要請
結論:
・種痘の副作用被害について、予防接種の危険が許容可能な範囲を超えた場合に国の賠償責任が成立する
こんにちは! 今日は、1991年(平成3年)に最高裁判所が出した、予防接種(種痘など)による健康被害についての非常に重要な裁判を紹介するよ。
「国に言われて注射を打ったのに、ひどい障害が残ってしまった。でも、国は『ちゃんとルール通りにやったから悪くない』と言っている……」。そんな、法律の「すきま」に落ちてしまった被害者を救い出すために、裁判所が「魔法のルール(推定)」を編み出した、とても正義感あふれる事件なんだ。
【ストーリー】「国を信じて打ったのに!」 vs 「手続にミスはありません」
私たちは、国(厚生大臣)の命令や勧めで「種痘(天然痘の予防接種)」を受けました。でも、そのせいで脳に重い障害が残ったり、亡くなったりする人が出てしまったんです。国が無理やり打たせたんだから、ちゃんと責任(損害賠償)を取ってください!
それは本当にお気の毒です。しかし、当時の医学の知識では、事前に副作用を100%予見することは不可能でした。私たちは法律に決まった通りの手順で「予診(事前のチェック)」もしていました。
裁判官さん、聞いてください。国に賠償責任(国家賠償法1条)があるというためには、お役所に「わざと(故意)」や「不注意(過失)」があったと言えなければなりません。私たちはルール通りにやったのですから、過失はありません!
そんな! 手続が正しかったら、どんなにひどい被害が出ても「運が悪かった」で済まされてしまうんですか? 私たちは一生残る障害を負ったんですよ!
【解説】裁判所でのバトル:登場!「国家補償の谷間」と「禁忌者の推定」
「みんな落ち着いて。今回のバトルのポイントは、お役所の行為が『適法(正しい)』と『違法(間違い)』のどちらにも当てはまらないような、難しい被害をどう救うかということなんだ」。
1. 「国家補償の谷間」を埋めろ!:
普通、お役所が「正しいこと」をしたなら「損失補償」、「間違い」をしたなら「国家賠償」でお金を払う。でも、予防接種は「正しい(公共のため)」けれど、結果として「ひどい損害(身体の障害)」が出た。これをどちらのルールでも救えない「国家補償の谷間」と呼ぶんだ。
2. 証明するのは難しすぎる!:
被害者の側が「国に不注意があった」と証明するのは、医学的にみても、証拠の面でも、ものすごく高いハードルなんだ。
3. 「魔法のルール(推定)」の登場:
そこで最高裁は、こんな驚きのルールを考え出したんだ。
「予診で『この人は打っちゃダメ(禁忌者)』だと見抜けなかったとしても、実際に打ってひどい障害が出たのなら、それはもともと『打っちゃいけない人』だったと推定(判断)することにしよう」。
つまり、「よっぽど別の原因(本人の体質など)があると国が証明できない限り、国に不注意があったとみなして被害者を救うよ」という、被害者にグッと寄り添ったルールを作ったんだね。
【判決】ひどい副作用が出たなら、国は「予診のミス」を認めて賠償しなさい!
最高裁判所(平成3年4月19日)は、次のような答えを出しました。
1. 「禁忌者」であったと推定する!
予防接種の前のチェック(予診)で「打ってはいけない事情」が見つからなかったとしても、実際に打って障害が生じたなら、他に特別な事情がない限り、その人は「本来打ってはいけない人(禁忌者)」だったと推定します。
2. 国の過失を認めやすくする!
国が「あの時のチェックは完璧だった」と反論するのは非常に難しいため、結果として違法性や過失が認められやすくなり、国は損害を賠償しなければならないと判断されました。
【判決の言葉】
> 最高裁判所の判決(平成3年4月19日)より(要旨)
> 「(予防接種をしてはならない者を識別するための)予診が尽くされたにもかかわらず、……事由を発見できなかったこと、……特段の事情が認められない限り、……(その者は)禁忌者に該当していたと推定するのが相当である。」
まとめ
* 予防接種の副作用は、「国家補償の谷間」として救済が難しい問題だった。
* 最高裁は、障害が出たなら「本当は打ってはいけない人だった」とみなす画期的なルール(推定)を作った。
* このルールのおかげで、被害者は国に対して損害賠償を請求しやすくなったんだね!
判決の後、日本はどう変わったの?
この判決は、今の日本の「薬害」や「副作用」に対する考え方を大きく前進させたよ。
* 「予防接種法」の救済制度がしっかりした!:
この判決の考え方(谷間を埋める必要性)がきっかけの一つとなって、今は「不注意があったかどうか」を争わなくても、予防接種で健康被害が出た場合には国からお金が支払われる「予防接種健康被害救済制度」がより手厚く整備されるようになったんだ。
* 「身体の重み」を再認識させた:
それまでの損失補償は主に「土地や建物」の損害が対象だったけれど、この判決は「人の命や身体に生じた特別な犠牲」も、法律の理屈を工夫してでも絶対に救わなきゃいけない、という強いメッセージを社会に伝えたんだよ。
* 予診のレベルが上がった:
お役所や病院が「後で自分たちの責任になるかもしれない」と強く意識するようになった。今の予防接種で、アンケートを細かく書いたり先生がしっかりチェックしたりするのは、この判例の教訓が生かされているんだね。
「国のための犠牲」を一人に押し付けない。法律の「すきま」にいた人たちに光を当てた、とても温かい判例だったんだよ。