行政・法律の疑問 読了 5分

「知らなかった」では済まされない! 見えない煙から働く人を守らなかった国の責任【大阪泉南アスベスト訴訟】

★ 判例データ

事件名:大阪泉南アスベスト国家賠償請求訴訟上告審判決
裁判所:最高裁判所
判決日:平成26年10月9日

関係法令:
・労働安全衛生法(石綿規制)
・国家賠償法1条

論点:
・アスベスト被害に対する国の規制権限の不行使の違法性
・損害発生との因果関係
・国の安全衛生規制の義務

結論:
・アスベスト(石綿)被害について国の規制権限不行使が違法とされ国家賠償責任が認められた

こんにちは! 今日は、2014年(平成26年)に最高裁判所が出した、工場の「煙(粉じん)」と「国の義務」をめぐる非常に重要な裁判を紹介するよ。
「アスベスト(石綿)」という、吸い込むと何十年も経ってから重い病気になる魔法の石。これを扱う工場で働いていた人たちが、「国がもっと早く厳しいルールを作ってくれなかったから、私たちは病気になったんだ!」と訴えた事件なんだ。
これまでに紹介した「筑豊じん肺事件」や「関西水俣病事件」の考え方をさらに一歩進めた、働く人の命の重みを問うお話だよ。

【ストーリー】「息が苦しい、助けて!」 vs 「工場のことは、会社の問題です」

工場の労働者Aさんたち

私たちは大阪の泉南地域にあるアスベスト工場で、一生懸命働いてきました。でも、そのせいで肺の病気(アスベスト肺や中皮腫)になり、仲間が次々と亡くなっています。国(労働大臣)は、もっと早く工場に「換気装置(換気扇のようなもの)をつけなさい!」と命令できたはずだ!
国の担当者

それは本当にお気の毒です。でも、アスベストがどれほど危険か、昔は今ほどハッキリわかっていなかったんです。それに、作業環境を良くするのは、一義的には「会社(事業主)」の責任です。
Aさん

そんなの無責任です! 会社は国が決めたルール(省令)さえ守っていればいいと考えて、お金のかかる装置なんてつけてくれませんでした。国が「やりなさい」と言わなかった(規制権限を使わなかった)せいで、被害がこんなに広がったんです!
国の担当者

お役所がいつ、どんなルールを作るかという「魔法の杖(規制権限)」を振るタイミングは、お役所の自由な判断(裁量)に任されています。だから、すぐに対応しなかったからといって、国が悪い(違法)とは言えないはずです!

【解説】裁判所でのバトル:登場!「魔法の杖を振るべき時」と「科学の力」

「みんな落ち着いて。今回のバトルのポイントは、お役所がもっている『ルールを決める魔法の杖(規制権限)』を、使わなかったことがどれほど罪深いのか、ということなんだ」。

1. 「サボり」にも限界がある:
たしかに、お役所がいつルールを作るかは基本的には「自由(裁量)」だけれど、その「自由」は無制限じゃないんだ。国民の命や健康に、取り返しのつかないひどい被害が出るのが分かっているとき、その自由は「義務」に変わるんだよ。

2. 「1958年(昭和33年)」の分岐点:
裁判所はこう考えたんだ。「昭和33年の時点で、アスベストを吸い込むと重い病気になることは医学的に分かっていた。国は、工場の主人に対して『局所排気装置(強力な換気扇)』をつけるよう、法律で強制できたはずだ」。

3. 「不行使」は違法!:
「国が、被害が出るのを防げる立場にありながら、何十年も放っておいた(規制権限を行使しなかった)ことは、著しく合理性を欠く行為であり、国家賠償法のルールに違反(違法)する!」と結論づけたんだ。

【判決】国は速やかに換気装置を義務付けるべきだった!

最高裁判所(平成26年10月9日)は、次のような答えを出しました。

1. 国の責任を認める!
労働大臣が、昭和33年(1958年)5月から昭和46年(1971年)4月までの間、アスベスト工場の事業主に対して「局所排気装置」の設置を義務付けなかったことは、国家賠償法の適用上、違法であると判断されました。
2. 被害者への賠償!
国は、アスベストによって病気になった元労働者やその遺族たちに対して、損害を賠償しなければならないとされました。

【判決の言葉】

> 最高裁判所の判決(平成26年10月9日)より
> 「(労働大臣が)……保安規制の権限を直ちに行使しなかったことは、……著しく合理性を欠くものであって、国家賠償法1条1項の適用上違法というべきである。」

【追記】判決の後、日本はどう変わったの?

この判決は、アスベスト被害に苦しむ日本中の人たちに大きな希望を与え、今の社会を大きく動かしたよ。

* 「建設アスベスト訴訟」へのバトン:
この泉南地域の工場の判決をきっかけに、今度は「建物を作る現場(建設現場)」でアスベストを吸ってしまった人たちも声を上げたんだ。そして2021年(令和3年)、最高裁判所は「建設現場でも国やメーカーの責任がある!」という大逆転の判決を出したんだよ。
* 「アスベスト給付金」という新しい仕組み:
何度も裁判をしなくても、一定の条件を満たせば国からお金を払ってもらえる「建設アスベスト給付金」という新しい法律が作られた。被害を受けた人たちがより早く、平等に救われるようになったんだ。
* 「お役所の責任」がさらに厳しくなった:
この判決によって、「医学や科学で危険がわかったなら、お役所はすぐに動かないと責任を問われる」という日本のルールが、より強固なものになった。私たちの食べ物や薬、環境の安全を国がチェックする姿勢が、より厳しくなったんだね。

まとめ

* 国が「ルール作り」を後回しにしたせいで被害が出たなら、国は責任を負う。
* アスベスト工場に換気装置を義務付けなかったのは、国の大きなミス!
* この判決が力になって、今は工場の外(建設現場など)の被害者も救われる道が広がっているんだね!

「見えない敵から国民を守る」。それがお役所の本当の仕事であることを再認識させた、歴史的な「正義の決断」だったんだよ。

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