行政・法律の疑問 読了 5分

「ルールを理由に払わない」のはズルい! 役所の不親切を叱った判例【在ブラジル被爆者健康管理手当等請求事件】

★ 判例データ

事件名:在ブラジル被爆者健康管理手当等請求事件
裁判所:最高裁判所
判決日:平成19年2月6日

関係法令:
・民法
・地方自治法
・自治体法
・被爆者援護法
・行政法

論点:
・法令遵守義務

結論:
・記事本文参照

「ルールを理由に払わない」のはズルい! 役所の不親切を叱った判例【在ブラジル被爆者健康管理手当等請求事件】

読者のみなさん、こんにちは! 今日は2007年(平成19年)に最高裁判所が出した、「役所が一度決めたルールが間違いだったとき、『時間が経ったからもう払わないよ』と言えるのか?」という、正義と誠実さについてのとても大切な裁判を紹介するよ。

国や自治体が間違った命令を出して、住民が困ってしまったとき、後から「時効(じきょう)」という消しゴムでその責任を消してしまっていいのか、というバトルなんだ。

【ストーリー】「海外にいても手当をください」 vs 「5年過ぎたからもう消えました」

ブラジルに住む被爆者のAさん

私は日本で被爆して、今はブラジルで暮らしています。日本の法律(被爆者援護法)では健康管理手当がもらえるはずなのに、ブラジルに行った途端、支給を止められてしまいました。
県(役所)の担当者

それは仕方がありません。当時の国(厚生労働省)が出した**「通達(つうたつ)」**というルールに、「海外に出国したら手当をもらう権利はなくなる」とはっきり書いてあったからです。
Aさん

でも、その後に裁判所が「その通達は法律の解釈を間違えている! 違法だ!」と判断して、通達は廃止されたじゃないですか。だから、今までもらえなかった分をまとめて払ってください!
県の担当者

困りましたね……。たしかに通達は間違いでしたが、地方自治法(236条)という街のルールには、「5年経ったらお金を請求する権利は消える(時効)」と書いてあります。あなたが請求してきた分の中には、もう5年以上前のものが含まれています。
県の担当者

裁判官さん、役所は法律を守らなきゃいけません。「5年で消える」と決まっている以上、たとえ私たちの元々の判断が間違いだったとしても、もう払うことはできないんです!
Aさん

そんなのズルすぎます! 役所が「払わない」という間違ったルールを押し付けていたせいで、私は請求できなかったのに。後から「時間が経ったからダメ」なんて、あまりに不公平です!

【解説】裁判所でのバトル:登場!「時効の消しゴム」と「魔法のルール(信義則)」

「二人とも落ち着いて。今回のバトルのポイントは、役所が『時効だから払わない』と主張することが、人として、そして組織として『誠実』といえるかどうか、ということなんだ」,。

1. 「時効」という消しゴム(地方自治法236条): 地方自治体のお金の貸し借りは、5年経つと消えてしまうという決まりがあるんだ。これは「いつまでも昔のことを蒸し返さないようにして、事務をスムーズに進めるため」にある、便利な消しゴムのようなルールなんだよ,。

2. 魔法のルール「信義則(しんぎそく)」: でも、法律にはもっと根本的な「信義誠実の原則(信義則)」という魔法のルールがあるんだ,。これは、「相手の信頼を裏切るようなズルいことをしちゃいけないよ」という、法律の世界の「お約束」なんだね。

3. 役所の「自作自演」は許さない: 裁判所はこう考えたんだ。「そもそも、Aさんが5年以内にお願いできなかったのは、国と自治体が『海外に行ったらダメ』という間違ったルールを一方的に押し付けていたからだよね」。

4. 「時効」を使わせないブレーキ: 「自分たちがAさんの権利をめちゃくちゃに妨害しておいて、後から『5年経ったから時効です』なんて言うのは、自分の失敗を棚に上げたズルい言い訳だ。こんな時にまで時効の消しゴムを使うことは、信義則に反して許されないよ!」と判断されたんだね,。

【判決】役所が一方的に権利を邪魔したなら、時効を理由に支払いを拒めない!

最高裁判所(平成19年2月6日)は、次のような答えを出しました。

1. 自治体の時効主張はダメ! 国や自治体が違法なルールを作って、住民が権利を使うのを著しく難しくさせた場合、後から自治体が「消滅時効」を主張して支払いを免れることは、信義則に反して許されません,。
2. 未支給の手当を払いなさい! Aさんには、5年以上前の分も含めて、手当を支払う義務があることが認められました。

【判決の言葉】

補足「……普通地方公共団体が、……基本的な義務に反して、既に具体的な権利として発生している国民の重要な権利に関し、法令に違反してその行使を積極的に妨げるような一方的かつ統一的な取扱いをし、その行使を著しく困難にさせた結果、これを消滅時効にかからせたという極めて例外的な場合においては、……消滅時効を主張することは許されないものというべきである。」

判決の後、日本はどう変わったの?

この判決は、全国の役所の「当たり前のマナー」を再確認させる大きな力になったよ。

– 「国の言うこと(通達)が絶対」ではなくなった! 自治体は、たとえ国から「こうしなさい」と言われても、それが本当に法律に合っているか、自分たちでしっかり考えなきゃいけない(法令遵守義務:地方自治法2条16項)という意識が強まったんだ。
– 住民の権利をもっと大切にするようになった! 形式的なルール(時効)よりも、一人ひとりの住民に対して誠実であることの方が重い、ということがはっきりしたんだよ。
– 同じような間違いの救済が進んだ! この判決をきっかけに、他の海外に住む被爆者のみなさんに対しても、過去にさかのぼって手当を支払う道が開かれたんだ。

まとめ

– 役所のお金には「5年で消える」という時効があるけれど、いつでも使えるわけじゃない!
– 役所が自分たちの失敗で住民を困らせたときは、信義則(誠実のルール)が優先される。
– この判決のおかげで、今の日本は「お役所のズルい言い訳」が裁判所で通用しない、より正しい社会になっているんだね!

「間違いは正直に認めて、ちゃんと償う」。子どもたちの世界でも当たり前のことが、大人のお役所の世界でも一番大事なルールなんだと教えてくれた、とてもかっこいい判例だったんだよ。

補足
条文補足:地方自治法第二百三十六条(金銭債権の消滅時効)
金銭の給付を目的とする普通地方公共団体の権利は、時効に関し他の法律に定めがあるものを除くほか、これを行使することができる時から五年間行使しないときは、時効によつて消滅する。普通地方公共団体に対する権利で、金銭の給付を目的とするものについても、また同様とする。金銭の給付を目的とする普通地方公共団体の権利の時効による消滅については、法律に特別の定めがある場合を除くほか、時効の援用を要せず、また、その利益を放棄することができないものとする。普通地方公共団体に対する権利で、金銭の給付を目的とするものについても、また同様とする。金銭の給付を目的とする普通地方公共団体の権利について、消滅時効の完成猶予、更新その他の事項(前項に規定する事項を除く。)に関し、適用すべき法律の規定がないときは、民法(明治二十九年法律第八十九号)の規定を準用する。普通地方公共団体に対する権利で、金銭の給付を目的とするものについても、また同様とする。法令の規定により普通地方公共団体がする納入の通知及び督促は、時効の更新の効力を有する。
補足
条文補足:地方自治法第二条
地方公共団体は、法人とする。普通地方公共団体は、地域における事務及びその他の事務で法律又はこれに基づく政令により処理することとされるものを処理する。市町村は、基礎的な地方公共団体として、第五項において都道府県が処理するものとされているものを除き、一般的に、前項の事務を処理するものとする。市町村は、前項の規定にかかわらず、次項に規定する事務のうち、その規模又は性質において一般の市町村が処理することが適当でないと認められるものについては、当該市町村の規模及び能力に応じて、これを処理することができる。都道府県は、市町村を包括する広域の地方公共団体として、第二項の事務で、広域にわたるもの、市町村に関する連絡調整に関するもの及びその規模又は性質において一般の市町村が処理することが適当でないと認められるものを処理するものとする。都道府県及び市町村は、その事務を処理するに当つては、相互に競合しないようにしなければならない。特別地方公共団体は、この法律の定めるところにより、その事務を処理する。この法律において「自治事務」とは、地方公共団体が処理する事務のうち、法定受託事務以外のものをいう。この法律において「法定受託事務」とは、次に掲げる事務をいう。法律又はこれに基づく政令により都道府県、市町村又は特別区が処理することとされる事務のうち、国が本来果たすべき役割に係るものであつて、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律又はこれに基づく政令に特に定めるもの(以下「第一号法定受託事務」という。)法律又はこれに基づく政令により市町村又は特別区が処理することとされる事務のうち、都道府県が本来果たすべき役割に係るものであつて、都道府県においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律又はこれに基づく政令に特に定めるもの(以下「第二号法定受託事務」という。)この法律又はこれに基づく政令に規定するもののほか、法律に定める法定受託事務は第一号法定受託事務にあつては別表第一の上欄に掲げる法律についてそれぞれ同表の下欄に、第二号法定受託事務にあつては別表第二の上欄に掲げる法律についてそれぞれ同表の下欄に掲げるとおりであり、政令に定める法定受託事務はこの法律に基づく政令に示すとおりである。地方公共団体に関する法令の規定は、地方自治の本旨に基づき、かつ、国と地方公共団体との適切な役割分担を踏まえたものでなければならない。地方公共団体に関する法令の規定は、地方自治の本旨に基づいて、かつ、国と地方公共団体との適切な役割分担を踏まえて、これを解釈し、及び運用するようにしなければならない。この場合において、特別地方公共団体に関する法令の規定は、この法律に定める特別地方公共団体の特性にも照応するように、これを解釈し、及び運用しなければならない。法律又はこれに基づく政令により地方公共団体が処理することとされる事務が自治事務である場合においては、国は、地方公共団体が地域の特性に応じて当該事務を処理することができるよう特に配慮しなければならない。地方公共団体は、その事務を処理するに当つては、住民の福祉の増進に努めるとともに、最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない。地方公共団体は、常にその組織及び運営の合理化に努めるとともに、他の地方公共団体に協力を求めてその規模の適正化を図らなければならない。地方公共団体は、法令に違反してその事務を処理してはならない。なお、市町村及び特別区は、当該都道府県の条例に違反してその事務を処理してはならない。前項の規定に違反して行つた地方公共団体の行為は、これを無効とする。
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