事件名:損害賠償、仮執行の原状回復等請求上告、同附帯上告事件(関西水俣病事件)
裁判所:最高裁判所
判決日:平成16年10月15日
関係法令:
・不法行為法(民法724条)
・環境汚染と損害賠償
論点:
・水俣病被害の不法行為の時効と起算点
・加害企業と国・県の責任
・規制権限の不行使と行政の賠償責任
結論:
・水俣病被害について国・県の規制権限不行使が違法とされ損害賠償が認められた
読者のみなさん、こんにちは! 今日は、2004年(平成16年)に最高裁判所が出した、日本の公害の歴史を語る上で絶対に外せない、そして「お役所の責任」の考え方を決定づけた非常に重要な判決を紹介するよ。
「悪いことをした会社が悪いのは当然だけど、それを止められる立場にいたお役所が『知らんぷり』をしていたら、お役所も責任を負うべきじゃないの?」という、国民の切実な問いに裁判所が答えた事件なんだ。
【ストーリー】「海が汚れ、体が動かない!」 vs 「会社が悪いのであって、国は関係ありません」
私たちは熊本県水俣湾の近くで獲れた魚を食べてきました。でも、その魚には工場(チッソ)が流した「メチル水銀」がたまっていた。そのせいで、手足がしびれたり、目が見えにくくなったりする「水俣病」という恐ろしい病気になってしまった。今は関西に住んでいるけれど、苦しみは今も続いています。
国や熊本県は、もっと早くチッソに「毒を流すな!」と命令を出したり、魚を獲るのを禁止したりできたはずだ。お上が何もしなかった(規制権限を使わなかった)せいで、被害がこんなに広がってしまったんだ!
それはお気の毒ですが、水質を汚したのはあくまで民間の会社です。私たちは当時の法律に基づいて、できる限りのことはしていました。
お役所がいつ、どんな命令を出すかという「魔法の杖(規制権限)」をいつ振るかは、お役所の自由な判断(裁量)に任されています。だから、命令を出さなかったからといって、国や県が損害賠償を払う義務(国家賠償責任)はないはずです。
【解説】裁判所でのバトル:登場!「お役所のサボり」と「国民の命」
「みんな落ち着いて。今回のバトルのポイントは、お役所が『やるべきことをやらなかった(不行使)』ことが、法律違反(違法)になるのか、ということなんだ」。
裁判所はこの難しい問題を、以前紹介した「筑豊じん肺事件」と同じような、非常に厳しい基準で判断したよ。
1. 「裁量」にも限界がある:
たしかに、お役所がいつ動くかは基本的には「自由(裁量)」だけれど、国民の命や健康に重大な被害が出るのがわかっているときには、その自由はなくなるんだ。
2. 「1959年(昭和34年)」の重み:
裁判所はこう考えたよ。「1959年の時点で、水俣病の原因がチッソの工場排水にあることは、医学的にもかなりはっきりしていた。それなのに、国や県がその時すぐに排水を止めさせたり、魚を食べるのを禁止したりしなかったのは、あまりにも不自然で不合理だ」。
3. 「不行使」は違法!:
「お役所が持っている『規制する権限』を、国民を守るために使わなかったことは、著しく合理性を欠く行為であり、国家賠償法1条1項のルールに違反(違法)する」と結論づけたんだ。
つまり、「会社を監視し、国民を守るべきお役所が、やるべき仕事をサボって被害を拡大させた」ことが、はっきりと認められたんだね。
【判決】被害を広げるのを放置した国と県は、賠償責任がある!
最高裁判所(平成16年10月15日)は、次のような答えを出しました。
1. 国と県の責任を認める!
1959年11月の段階で、水俣病の原因が工場排水である可能性が高いことが判明していた。国(当時の経済産業大臣や運輸大臣)や熊本県がその時点で適切な規制を行わなかったことは、著しく合理性を欠き、国家賠償法上、違法であると判断されました。
2. 被害者への賠償!
国と熊本県は、原告である被害者たちに対して損害を賠償しなければならないとされました。
【判決の言葉】
> 最高裁判所の判決(平成16年10月15日)より(筑豊じん肺事件の法理を引用)
> 「(規制権限を)直ちに行使しなかったことは、……著しく合理性を欠くものであって、国家賠償法1条1項の適用上違法というべきである。」
【追記】判決の後、日本はどう変わったの?
この判決は、水俣病の解決を大きく前進させ、今の日本の「環境」と「責任」のあり方を変えたよ。
* 「被害者救済」の道が広がった!:
この判決で「国の責任」が確定したことで、それまで公害認定を受けられずに苦しんでいた多くの人たちが、新たな救済を受けられる道が開かれたんだ。日本の公害訴訟における「歴史的な大勝利」と言われているよ。
* 「お役所の責任感」が劇的に変わった!:
「何か起きてから動く」のではなく、「被害が出るおそれがあるなら、先回りして規制しないと訴えられる」という緊張感がお役所に生まれた。今の日本で食品や化学物質の安全チェックが厳しく行われているのは、この判例の教訓が生かされているからなんだ。
* 「不行使」のルールが定番に!:
「筑豊じん肺事件」と「関西水俣病事件」で確立されたこの「規制権限の不行使」という考え方は、その後もアスベスト(石綿)の被害などの裁判でも使われ、「お役所はサボってはならない」という日本の法律の常識になったんだよ。
まとめ
* 公害で被害が広がったのは、「お役所が止めるべき権限を使わなかった(サボった)」から!
* 「1959年」という早い段階で、国や県は動くべきだったとされた。
* この判決のおかげで、今は「国民の命がかかっているときは、お役所は速やかに動く義務がある」ことが明確になっているんだね!
「不作為(なすべきことをしないこと)」も立派な罪になる。この判例は、私たち一人ひとりの命の重さを、お役所に再認識させた、とても大切なメッセージだったんだよ。