行政・法律の疑問 読了 5分

「後でお金を返してもらえるなら、今は止めなくていいよ」と言われちゃった判例【人骨後退差止請求事件(新宿人骨事件)】

★ 判例データ

事件名:人骨後退差止請求事件
裁判所:最高裁判所
判決日:平成12年12月19日

関係法令:
・行政法
・地方自治法
・2002年法
・自治体法

論点:
・(記事本文参照)

結論:
・記事本文参照

読者のみなさん、こんにちは! 今日は2000年(平成12年)に最高裁判所が出した、「役所がおかしなことにお金を使おうとしているとき、それを事前にストップさせるのはどれくらい難しいのか?」という、住民訴訟のルールに関する大切なお話を紹介するよ。

この裁判は、ある工事現場で見つかった「人骨」をめぐるショッキングな事件がきっかけで、その後の日本の法律(地方自治法)を大きく変えることになったんだ。

【ストーリー】「骨の正体を調べるのが先だ!」 vs 「工事は止められない」

新宿の住民Aさんたち

大変です! 国立予防衛生研究所の建設現場から、たくさんの人骨が見つかりました。これは戦時中の「731部隊」に関係する重要な証拠かもしれません。市(役所)はこの骨を勝手に埋葬したり処理したりするためにお金を使ってはいけません! 調査が終わるまで支出を止めてください(差止請求)!
東京都(お役所)

Aさんたち、落ち着いてください。私たちは決められたルールに従って工事を進め、見つかった遺体を適切に弔おうとしているだけです。これを止める法的な理由はありません。
住民Aさんたち

いいえ、もし勝手にお金を使って骨を動かしてしまったら、もう二度と真相は分からなくなってしまいます。私たちの税金を「証拠隠滅」のようなことに使わせるわけにはいかないんです! 裁判官さん、今すぐこのお金の支払いを差し止めてください!
お役所の担当者

裁判官さん、当時の法律(地方自治法)では、お金の支払いを事前に止めるには「取り返しのつかないようなひどい損害(回復の困難な損害)」が起きる証拠が必要なはずです。お金を払った後でも、もしそれが間違いなら後で返してもらえばいいだけですから、今は止める必要はないはずです!

【解説】裁判所でのバトル:登場!「高すぎるハードル」と「事後の救済」

「二人とも落ち着いて。今回のバトルのポイントは、住民訴訟の『1号請求(差止請求)』という武器を使うためのハードルがどれくらい高いか、ということなんだ」。

  • 「1号請求」は魔法のストップボタン: 住民が「その支出、おかしいからやめて!」と言えるのが1号請求だよ。でも、2002年に法律が変わる前は、このボタンを押すためには「放っておくと、後でどうしようもないくらいの損害が出る(回復の困難な損害)」ということを証明しなきゃいけなかったんだ。
  • 「お金なら後で返せるでしょ」理論: 裁判所はこう考えたよ。「住民が心配している気持ちは分かる。でも、もしこの支出が違法だったとしても、後で『4号請求(損害賠償請求)』という別の裁判を起こして、担当者にそのお金を市に返させれば、市としての損害は元通りになるよね」。
  • 「取り返しがつかない」の壁: 「お金で解決できる以上、それは『回復の困難な損害』とは言えないんだ。だから、今の段階で無理やりストップボタンを押すことは認められないよ」という、住民にとってすごく厳しい答えを出したんだね。
  • 【判決】後で損害を埋め合わせできるなら、事前の差止めは認められない!

    最高裁判所(平成12年12月19日)は、次のような答えを出しました。

  • 差止請求の訴えを退ける! 当時の地方自治法のルールでは、公金の支出を差し止めるには「回復の困難な損害を生ずるおそれ」が必要です。
  • 4号請求があるからダメ! 支出が違法であっても、後で「不当利得返還」や「損害賠償(4号請求)」によって市にお金を戻させることが可能であるならば、原則として「回復の困難な損害」にはあたらないと判断されました。
  • 【核心となる考え方】(出典の解説より)

    「2002年の地方自治法改正以前には、1号請求に『回復の困難な損害を生ずるおそれがある場合に限る』という要件が規定されていました。このため4号請求によって事後的な救済が可能な場合には『回復の困難な損害』にあたらないとされ、1号請求が認められないことがありました(例えば、最判平12・12・19……)」

    まとめ:判決の後、日本はどう変わったの?

    この判決で住民側が負けてしまったことがきっかけで、日本は「これじゃあ住民が税金の無駄遣いを事前に止めるなんて無理だ!」という議論になり、2002年(平成14年)に大きな法律の改正が行われたんだ。

  • 「高すぎるハードル」がなくなった!: 「回復の困難な損害」という厳しい条件が、法律から削除(廃止)されたよ。おかげで、今の日本は以前よりもずっと簡単に、おかしい支出を事前に止める裁判(1号請求)を起こせるようになったんだ。
  • 新しい「ブレーキ」ができた: ハードルを下げる代わりに、新しく「その支出を止めちゃうことで、誰かの命が危なくなったり、みんなの迷惑(公共の福祉)がひどくなったりするときは、止められないよ」というルールが付け加えられたんだ。
  • 住民のチェック機能がパワーアップした: 「後でお金を返せばいい」ではなく、「そもそも最初から無駄な金を使わせない」という考え方が強まり、今の私たちの街のクリーンな政治を支える大事な仕組みになったんだよ。
  • 最後に

    「骨の正体を知りたい」という住民の願いは、この裁判ではすぐには叶わなかったかもしれない。けれど、その悔しさが「住民がもっと声を上げやすい法律」を作る力になった。今の日本の地方自治は、この失敗をバネにして一歩前進したんだね!

    補足
    参照条文:
    ・第二百四十二条の二((住民訴訟))
    普通地方公共団体の住民は、前条第一項の規定による請求をした場合において、同条第五項の規定による監査委員の監査の結果若しくは勧告若しくは同条第九項の規定による普通地方公共団体の議会、長その他の執行機関若しくは職員の措置に不服があるとき、又は監査委員が同条第五項の規定による監査若しくは勧告を同条第六項の期間内に行わないとき、若しくは議会、長その他の執行機関若しくは職員が同条第九項の規定による措置を講じないときは、裁判所に対し、同条第一項の請求に係る違法な行為又は怠る事実につき、訴えをもつて次に掲げる請求をすることができる。
    当該執行機関又は職員に対する当該行為の全部又は一部の差止めの請求
    行政処分たる当該行為の取消し又は無効確認の請求
    当該執行機関又は職員に対する当該怠る事実の違法確認の請求
    当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方に損害賠償又は不当利得返還の請求をすることを当該普通地方公共団体の執行機関又は職員に対して求める請求。
    ただし、当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方が第二百四十三条の二の九第三項の規定による賠償の命令の対象となる者である場合には、当該賠償の命令をすることを求める請求
    前項の規定による訴訟は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める期間内に提起しなければならない。
    監査委員の監査の結果又は勧告に不服がある場合
    当該監査の結果又は当該勧告の内容の通知があつた日から三十日以内
    監査委員の勧告を受けた議会、長その他の執行機関又は職員の措置に不服がある場合
    当該措置に係る監査委員の通知があつた日から三十日以内
    監査委員が請求をした日から六十日を経過しても監査又は勧告を行わない場合
    当該六十日を経過した日から三十日以内
    監査委員の勧告を受けた議会、長その他の執行機関又は職員が措置を講じない場合
    当該勧告に示された期間を経過した日から三十日以内
    前項の期間は、不変期間とする。
    第一項の規定による訴訟が係属しているときは、当該普通地方公共団体の他の住民は、別訴をもつて同一の請求をすることができない。
    第一項の規定による訴訟は、当該普通地方公共団体の事務所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に専属する。
    第一項第一号の規定による請求に基づく差止めは、当該行為を差し止めることによつて人の生命又は身体に対する重大な危害の発生の防止その他公共の福祉を著しく阻害するおそれがあるときは、することができない。
    第一項第四号の規定による訴訟が提起された場合には、当該職員又は当該行為若しくは怠る事実の相手方に対して、当該普通地方公共団体の執行機関又は職員は、遅滞なく、その訴訟の告知をしなければならない。
    前項の訴訟告知があつたときは、第一項第四号の規定による訴訟が終了した日から六月を経過するまでの間は、当該訴訟に係る損害賠償又は不当利得返還の請求権の時効は、完成しない。
    民法第百五十三条第二項の規定は、前項の規定による時効の完成猶予について準用する。
    第一項に規定する違法な行為又は怠る事実については、民事保全法(平成元年法律第九十一号)に規定する仮処分をすることができない。
    第二項から前項までに定めるもののほか、第一項の規定による訴訟については、行政事件訴訟法第四十三条の規定の適用があるものとする。
    第一項の規定による訴訟を提起した者が勝訴(一部勝訴を含む。)した場合において、弁護士、弁護士法人又は弁護士・外国法事務弁護士共同法人に報酬を支払うべきときは、当該普通地方公共団体に対し、その報酬額の範囲内で相当と認められる額の支払を請求することができる。
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